短編小説
□壁
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ツアーも数公演が過ぎ、東京へ戻って俺とトモちゃんはシゲと一緒に街へ食事に出掛けた。
勝手に3人で中打ち上げをしていた。
ご飯を食べて、コンサートを終えてきたばかりなのにカラオケに行って。
トモちゃんはタクシーで一人で帰るというので、俺とシゲは一緒に帰ることにしたのだけど、タクシーを捕まえようと通りに出たときだった。
隣にいたトモちゃんの足が止まった。
「どうしたの?」
小刻みに震えていて、必死に俺の腕に掴まっていた。
「…慶……」
その様子に一瞬で何が起きたか分かった。
俺はトモちゃんを抱きしめながら、
「シゲ!代わりにタクシー捕まえて!」
と頼んだ。
トモちゃんのこんな姿を初めてみるシゲは固まったまま動かない。
「シゲ!早くタクシー捕まえろって!」
滅多に大声を出さない俺の声にビックリして、ようやく我に返ったシゲは慌ててタクシーを捕まえた。
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