短編小説

□another story
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俺は、バーに一人で来た。


よく店の前は通っていたが、中に入るのは初めてだった。


「いらっしゃい…」


無口そうなマスターの声。


風貌もそんな感じで、商売っ気があまり無さそうにも見える。


初めて会ったのに、どこかで会ったような気がするんだけど…。


って、そんなわけないか。


「何に致しましょう…」


「ジントニックを…」


「畏まりました…」


今となっては超レトロな店構えとなったけど、古き良きアメリカやヨーロッパのようなインテリアの小綺麗な店内。


もちろん、注文だってレトロ。


今や、どこのバーだって紙みたいに薄いタッチパネルで注文するのに、このバーは口頭で注文を取る。


年配の客は懐かしがって、よくこういうバーに集まったりするらしい。


僕は、バーチャルで体験していたから、すんなりと注文することが出来た。


グラスに入れる氷のカラカラという音が耳に心地よく響く。


出来上がったジントニックが目の前に出された。


「お待たせしました…」


「ありがとうございます。」


一口飲むと、バーチャルで行ったあの店を思い出して、ちょっと懐かしかった。


ふと気付くと、自分が座っているカウンターの端の席に女性が一人で飲んでいる姿が目に入った。


珍しいなぁ…


誰かと待ち合わせだろうか?


そんなに長い間みていたわけではないが、その女性と目が合った。


ついクセで、ニコッと微笑んでしまった。


すると、俺の笑顔をどう取ったのか、飲んでいたグラスを片手に席を移動してきた。


バーチャルの前なら、そういう女性が近寄ってきても、適当に一晩過ごして朝にはサヨナラ…ってことが多かったけれど、今はもうすっかり苦手になってしまった。


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