augurio

□持ってないものを出せって言われても出せない
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『もしもし退くぅーん?』

[何そのうっざい呼び方。
何か用?何もないなら電話かけてこないでよ。俺アヤほど暇じゃないんだけど。]

『酷っ…用、っつか緊急事態!』

[え、な…なに]

『今すぐ来て。助けに来て。』

[ちょ…え?]





#9 持ってないものを出せって言われても出せない






[はあぁあぁああ!?]

『プリーズ!ヘルス!ヘルスミ――!!Meにアンブレラを!!!』

[どんな英語だよ!つーか英語になってねーよ!!]

『もういいよ!なんでもいいから傘持ってきて!私を送り届けて!!!』

[ああもうわかったよ]



ピッ。
機械音と共に、退との会話が終了。
ケータイをポケットにしまい、止む気配のない雨空を見上げた。
黒くて、墨の様に黒い空。

そういや、そろそろ梅雨入りなのか。





『ふぁ……』

「大きなあくびですねィ。」

『!?』





突然の声にぎょっとして、振り返ってみるとそこには亜麻色。
そんな色を持った人物は、私の中に一人しかいない。




『そ、え…総悟くん!?え…な、なにしてるの?』

「雨に降られやした。そっちは?」

『同じく。んで、退待ちだよ。』

「ふうん。」




ザァァァ、パラパラ、耳についた雨音。
静か…だなあ……っじゃない!!
なんか気まずい…話題無いかな…。

そういえば総悟くんと二人っきりって初めてじゃないかな…。
おおうふなんか恥ずかしくなってきた!




『あ、えっと、総悟くん…傘は?』

「家でさァ。お前もかィ?」

『うん…まぁ…。』

「ふうん。」




沈黙。
え、ちょ、どうしようだんだん本当に気まずくなってきた!!
話題…!




『えっと…総悟くん、どうやって帰るつもり?』

「山崎が持ってくるであろう傘を、二本とも奪ってダッシュで帰りまさァ。」

『私達が帰れないよ!!!というか酷いな!!
なんで二本とも奪っちゃうの!!』

「俺がドSだからでィ。」

『とっても理不尽な理由!!!』



サドいな、総悟くん!サドいってなんだ、私。
まあでも…そういって二本とも持ってったりはしないんだろうな、多分。
なんだかんだで総悟くん、優しいもん。

はあと一つ溜息を吐いて、その場にしゃがみ込んだ。
見上げる空は、やっぱり墨の色。
その空にまた溜息。






「溜息を吐いたら、幸せが逃げるって小学校で先生に習わなかったのかィ?」

『……習った。』

「なら吐くなィ。』






ポンッと大きな手が、頭の上に置かれた。
そうしてくしゃりと私の髪を握った。
引っ張られている訳ではないから、痛くはない。
むしろ心地良いと思ってしまった。

なんだか変だな、私。



『………何…?』

「……いや…別に…」



本当に何でもないように、総悟くんは空を仰ぐ。
空といっても、その間にある天井を。
無機質なコンクリートを見つめる、憂い気な瞳に少し見とれて、あわてて目をそらした。




『……退…遅いな………』







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