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□小も大を兼ねる
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雲一つない青が、ゆらゆらと日の光に揺れる青と混ざり合って、
その青から伸びた白がすぐ近くで波音を立てた。

#19 小も大を兼ねる
 





『海だーーっ!』

「海アルー!」




そう。
私たちは今、広大な海を目の前にしていた。
夏休みとはいえ平日だし、別にお盆というわけでもないので、浜辺にいる人は多くない。
むしろガラガラだ。

麦わら帽子をかぶり、重たそうな番傘をさした神楽ちゃんが、白いチュニックをひるがえして振り返る。

今日はメガネをかけていないので、白くて艶やかな肌に、ブルーの瞳がよく映えている。
やっぱりこの子は美少女だ。




「すごいヨアヤ!カモメがいるヨ!!」

『うん!すごいねぇ!』




おさげに結われた髪が、神楽ちゃんが跳ねる度にひょこひょこと揺れる。
可愛い。




「はやくはやく!」

「うふふ、そんなに焦らなくても海は逃げないわよ。」




はしゃぐ神楽ちゃんの後ろから、妙ちゃんが上品に声を上げる。

潮風に膝丈の青いスカートが揺れる。
ノースリーブのシャツを合わせているので、今日の彼女は一段と清楚に見える。

ちなみに神楽ちゃんは妙ちゃんが誘った。
うんまあ…この二人が居れば怖いものはないよね。
ついでに言うと新ちゃんくんも来ている。




「僕はついでなんですね。」




まあそれはさておき。




『私たちって…本当に受験生だよね?』

「そのはずだけど。」




私の言葉に返事をよこしたのは、おなじみの退である。
人の事を言えた義理ではないが、相変わらず地味だ。
そんな私たちに割って入ったのは、キャップをかぶった総悟くんだった。




「まあ人間、息抜きは必要でさァ。」

『年中息抜きしてるようなもんじゃん、総悟くん。』

「お前に言われたくないですねィ。」




キャップをかぶっているとはいえ、頭一つ分はあるであろう身長差で、彼の顔は容易に覗き込むことができた。
いつも通りの気だるげな瞳は、海の方へと向けられていた。




「さ、早く着替えましょう。」

「そうですね!俺も早くお妙さんの水着姿を拝見したいです!!」

「……………………。」




その人は、海パン一丁で麦わら帽子に、シュノーケルを装着し、虫網を右手に左手には浮き輪にスイカ。
斜め掛けに虫かご、釣竿ケースを下げていた。

……いやいや、まぜすぎでしょう。

背後から出てきた近藤君を、妙ちゃんは無言で海の方へと投げ飛ばした。
浜に突っ込み、必死に足をばたつかせる近藤君を、一度も見ずに、妙ちゃんは手をパンパンと叩いた。




「散れっ。」

『すでに散らしたよ…。』




土方君が頭を抱えたのが見えた。
はは…は。
引きつりながらも口角を上げていると、後方の高い位置から、気だるげな声が降ってきた。




「おいおいてめぇら、仲良くやれよォ。」

『銀ちゃん…なんで来てるのこの人ホント。』




今回たった一人の異色メンバー。
それは、私たちの担任、銀ちゃんだった。
彼は、麦わら帽子を首からフードのように、背中へぶら提げて、チューペットをくわえていた。




「ホラ、アレだよ、夏の海は危険でいっぱいなんだよ。
ナンパ目的の男とか、変態とか、巨大宇宙生物とか。
そんなんが現れたとき、あんなゴリラ共に何ができる。
なんもできねーだろ、俺しかどうにもできねーだろ。」

『巨大宇宙生物ってなに。』

「つーかゴリラは一人だけなんで。
俺達一緒にしないで下さい。」




私と退の突っ込みを無視して、彼は砂浜へと降りていく。
新ちゃんくんは、今日は突っ込みお休みかな。

なんともまあ、にぎやうあな面子だ。
ていうか銀ちゃんはホント、どこから私たちが海行く話を聞いたんだか…。
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