物語
□incomplete Love:08
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「これ、ちょうどよく見つかったから、後はい、体温計」
「計ったほうがいいですよね?」
「もちろん」
私は体温計のスイッチをいれて脇に挟む。
一応ひえピタも使わせてもらった。
うわっ、すごく気持ちいいな。
そうだ、さっきの疑問、聞いてもいいのかな?
「奏出矢さん」
「ん?」
「私、医務室に運ばれたはずなのに、何故奏出矢さんの家に?」
「うん、いい質問だね!楓君!」
「……」
「そ、そんな冷めた目で見なくても…。鳴海さんがね、ここまで俺と楓ちゃんを車で送ってくれたんだよ」
「えっ、鳴海さんが?」
「そう、ここにいつまでもいたってしょうがないだろ、なんて言ってね。楓ちゃんの家を鳴海さん知らないから、とりあえず俺の家まで送ってくれたんだよ。
あ、それでその時に燈島さんとも別れたんだけどね」
「そ、そうだったんですか…。お礼、言わないといけませんね」
「あーいいよ、いいよ。あの人顔に似合わず恥ずかしがりやだから。面と向かってお礼言われたら何言われるかわかんないよ?」
「でも、お世話になったならお礼を言わないと私の気がすまないので」
「ま、まぁその辺は楓ちゃんの好きにするといいよ」
そう言って困ったように笑う奏出矢さん。
その瞬間に、ピピッと電子音が部屋に響き渡った。
私は体温計を取り出して、電子版に表示された体温を見る。
37度5分。
微熱だけど、だいぶさがったみたい。
スイッチで電源を消して、ベットサイドのティッシュを一枚手にとって体温計を拭く。
一応マナー的にね?
「ありがとうございました」
「何度だったの?」
「37度5分です。迷惑かけまして、すみません。ありがとうございました。そろそろ帰りますね」
「えっ、帰るの?泊まっていって大丈夫だよ?」
「でも、奏出矢さんに移ると大変ですから」
そう言うと、何故か奏出矢さんはムッとした表情を見せた。
そんな奏出矢さんの表情に、私は戸惑ってしまう。
私、なんかまずいこと言った…?
そう心配すれば、奏出矢さんはすくっと立ち上がり私の目を見据えて言い放つ。