物語

□incomplete Love:08
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「で、何から知りたい?」


「ここ、本当に奏出矢さんの家ですか?」


「え、そこ?そこ知りたいの?」


「あ、すみません。そうですよね、変なこと聞きました。失礼ですよね」


「いや、別にかまわないんだけど…。楓ちゃんなら、教えてあげちゃおうかな?
ここは、正真正銘俺の家だよ。でもまぁ、本当言うと、俺の家であって、俺の家じゃないって感じかな?」


「?」


「家は一般家庭なんだけど、俺の叔父がまぁ、俗に言う金持ちってやつでね。そんな叔父がいきなり数年前に”南の島で余生を過ごしたい”とか言い出すもんだから、当時叔父が住んでいたこの家を俺が借りたってわけ。水道高熱費だけ自分で払えばいいよって言うもんだからさ。超いい話でしょ?」


「そう、ですね。じゃあ、他の管理費とかは叔父さんが…?」


「そうそう。管理費とか税金は叔父が払ってるよ。お金だけは持ってるからね、あの人」


「いい叔父さんですね」


「うん、感謝してる」



そう言って照れくさそうに笑う奏出矢さん。
そんな奏出矢さんの笑顔に、私の心は何故か安心感を覚えていた。
不思議だ。
奏出矢さんと話してるだけなのに、こんなにも心が安らぐなんて…。



「それで?他にも聞きたいことあるでしょ?」


「ああ、そうでした。あの、私一体あの後どうなったんですか?」



私の言葉に、奏出矢さんは少し困ったような表情を見せた後、背もたれによりかかるように上を向いた。
そして、ちらりと視線を私に向けてくる。
い、一体何が合ったんだろう。
私が不安そうな視線を向ければ、奏出矢さんは苦笑いを溢した。



「うーん、どこから説明しようかな。まぁ、最初からでいいよね?」


「は、はい」


「楓ちゃんが倒れたとき、俺すぐ傍にいたんだよ。覚えてる?」


「は、はい。一応…」


「びっくりしたよ。あれ楓ちゃんだ、とか思ったらいきなり倒れちゃうしさ。すぐに駆け寄ってみたら顔色最悪で意識ないし。呼吸も荒かったから正直すっごく焦った」


「す、すみませんでした…」


「楓ちゃんのお友達の燈島さんだっけ?もうすっごく取り乱しててね。私がいけないんだとか、無理矢理どうのこうの言ってたけど、とりあえず落ち着かせて楓ちゃんを警視庁の医務室に運んだんだよ」


「……」


「医務室の人によると、単なる風邪ってことだったからさ、とりあえず燈島さんと楓ちゃんの目が覚めるの待ってたんだけど…」


「ここにいるってことは、起きなかったんですよね…」


「ま、まぁね。そんなに落ち込まないでよ?燈島さんと色々話できて楽しかったし」




奏出矢さんが言った言葉に、私はハッとなった。
そうだ、そうだよ。
私、奏出矢さんにチョコをあげに警視庁まで来たんだ。
それで私が倒れちゃったもんだから…。


もしかして美月、奏出矢さんにチョコの件言っちゃったんじゃ…。

そう考えたら、途端に私の顔は熱くなり始めた。
だってだって!
どう、どうしよう。
これはどのタイミングで渡せばいいんだ!?
ってか、奏出矢さんが何も言わないってことは渡さなくてもいいのか!?

だんだんこんがらがってきた頭がパニックを起こしそうになると、いきなり奏出矢さんが立ち上がった。
それに驚いて奏出矢さんに視線を向ければ、奏出矢さんは心配そうな表情をしていた。

あれ?
私なんかやった?



「楓ちゃん、もしかしてまだ熱上がってる?」


「はい?」


「顔赤くなってるからさ。体温計持ってくるからちょっとじっとしててね」


「えっ、いや、あの…!!」


「年上の言うことは、素直に聞こうね?」



そう言い残して笑いながら部屋を出て行ってしまった奏出矢さん。
いや、そういうことじゃないんだけど…。
まぁ、いっか。
少しパニックになりかけてたし。

思えば少し、まだ体が熱いような気がした。
うん?でもこれって熱なのか?
それともパニックになったから?

ああもう考えるのはやめよう。
これ以上症状を悪化させるようなことになれば、看病をしてくれていた奏出矢さんにも申し訳ない。

ん?
そういえば、医務室に運ばれた私がなんで奏出矢さんの家にいるんだろう?
奏出矢さん電車通勤のはずだし。
それとも、今日だけバイクだった?
いやでもバイクじゃさすがに運ばれてる最中に目が覚めるだろうし。

私がまた疑問符を飛ばしていると、ちょうどよく奏出矢さんが帰ってきた。
その手には体温計。
それと…、ひえピタ?
奏出矢さんは先ほど座っていた椅子に座ると、私に体温計を手渡した。
それと、ひえピタも。








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