物語

□incomplete Love:08
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「楓ちゃん、大丈夫!?」


「あれ私…、ここ、一体…。なんで奏出矢さんがここに…?」


「覚えてる?楓ちゃん警視庁で倒れたんだよ」


「あっ…」



奏出矢さんの言葉で、すべての記憶がよみがえった。
そうだ、私美月と警視庁に来て、そのまま倒れちゃったんだっけ。

私はふいに身を起こそうとしたが、何故かまた強い眩暈に見舞われて寝ていたベットに逆戻りしてしまった。
わけがわからなくて、疑問符が浮かぶ。
すると、奏出矢さんがクスリと笑った。



「もう少しそうしてた方がいいよ。楓ちゃん熱あったんだよ」


「ね、熱…?」


「そう、38度3分。よく警視庁まで来れたよね」



熱…。
そういえば、起きた時から寒気はしてたし。
頭も痛かった。
吐き気と眩暈は、熱のせいなのか。

私が妙に納得していると、ふいに奏出矢さんが立ち上がった。
慌てて視線を戻せば、奏出矢さんは優しく笑っている。
何故か、どくんと視線が高鳴った。



「それより楓ちゃん大丈夫…?」


「え?」


「すごくうなされてたんだよ。悪い夢でも見た…?」



奏出矢さんの言葉に、私は瞬間的に夢の内容を思い出した。

孤独。
胸の痛み。
涙。
苦痛。

最近は見なくなってたのに。
なんでまた…。
しかも今日なんて、間が悪すぎる。
私が苦笑すれば、今度は奏出矢さんが疑問符を飛ばす番だった。



「楓ちゃん?」


「大丈夫です。少し昔の夢を見ただけで。気にしないでください」


「そう?あ、なんか飲む?」


「え、あ、は…い」


「じゃあ、水持って来るね」



奏出矢さんはそう言って部屋を出て行った。

そういえば、私倒れてからどうしたんだろう…?
そう思って今いる部屋を見回せば、まったく知らない場所だと気がついた。
私は大きなネイビーブルーのベットに寝ていて、ベットサイドの小さな灯だけが部屋を照らしている。
大きな窓はレースカーテンで閉められていて、外の夜景が少しだけ見えていた。
どうもここは、マンションのかなり高いところらしい。
窓の外が暗いことから、今が夜なのだとわかる。
私ってば、何時間寝ていたんだろうか…。

そんなことを考えていると、奏出矢さんが部屋に戻ってきた。
私は、思っていた疑問を素直にぶつけることにした。



「あの、ここどこですか?」


「ああ、言ってなかったっけ。俺の家」


「…、は…、い?」


「だーから、俺の家。どう?広いでしょ?」



そう言いながら微笑んだ奏出矢さんは、ふいにコップを差し出してきた。
中でゆれる水を見た瞬間に、すごく喉がかわいていることに気がつく。
ってか、寝汗をかいたらしく服が張り付いてきて気持ち悪かった。
今度は眩暈が起こらないように慎重に体制を起こせば、奏出矢さんが空いていうる手で少し助けてくれた。
今は、そんな人の優しさが身に沁みる。


コップを受け取って口へ運び傾ければ、冷たい水が喉を潤してすごく気持ちがよかった。
食道を流れる水を体内で感じる。
水を半分ほど飲んで口を放せば、奏出矢さんが手を差し出していてコップを預けた。
それを奏出矢さんはベットサイドの机の上において、自分はベットの横においてあった椅子へと腰掛ける。
すると、意味ありげな笑みでこちらを見てきた。









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