物語
□incomplete Love:04
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でも、楽しいと思えるこの瞬間は、次の瞬間には恐怖へと変わっていた。
誰かいる。
確実に。
誰かが、私たちの後をつけてきている。
私が振り返って奏出矢さんに視線を向けると、奏出矢さんもわかっているのか、私におでんの入った袋を手渡した。
「何かあった時に、俺が対処できないと困るからね」
「このまま歩いてていいんですか?」
「う〜ん…、手でも繋いでみる?」
「嫌に決まってるじゃないですか」
なんで手なんか繋がなくちゃいけないんだ。
そもそもそんなことしたら、犯人の神経を逆なでするだけじゃないか。
いや、奏出矢さんの場合人の神経を逆なでするのは得意か。
主に私の。
そんなことを考えていると、急に奏出矢さんが私の肩を掴んで静止を促す。
私は首だけで後ろに振り返る。
そこには見たこともないぐらいに真剣な表情を浮かべた奏出矢さんがいた。
「楓ちゃん、絶対に俺の傍にいるんだよ?」
「えっ?」
「多分、今俺と楓ちゃんが一緒にいることで犯人がかなり逆上してる。何が起こるかわからないから」
奏出矢さんの言葉に、事態が深刻なものだと理解した。
どういうこと?
そんなに危ない状況なの?
奏出矢さんの言葉を数秒後には理解する。
奏出矢さんが見つめる先…、建物の影から一人の男が出てきた。
男と目があう。
虚ろな、虚無を感じさせるような瞳。
全身黒ずくめで、闇に溶け込んでいるように見える。
瞬間的に恐怖を感じた。
「君は…、俺のだろう?」
「…!?」
「なんでそんな男と一緒にいるんだよ?君のことを本当に好きなのは僕なのに…、何で気づいてくれないだよ!!」
男の態度が豹変した。
奏出矢さんは、私を男から隠すように立ちふさがる。
男はそんな奏出矢さんに逆上しているのか、すさまじい形相でこちらを見てきた。
この人がずっと私の後をつけていたのかと思うとぞっとする。
「君がずっと、粒羅野楓さんをつけ狙っていた人?」
「そうだよ?だって彼女さ、俺がずっーと見ているのに気づいてくれないし。あまつさえ君のような男を家に上げてしまった。君は僕のものなのにさ、勝手な行動されちゃ困るんだよね」
「無言電話も君の仕業?」
「そうだよ。俺の存在にようやく気づいたみたいだったからさ、もっと友好を深めようと思ってね。ねぇ、なんでそっちにいるんだよ?こっちにおいでよ。楓さん…?」
男の声に、体が震えるのがわかる。
これは完璧なる恐怖。
この人おかしい。
狂ってる。
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