2nd.

□第1章
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ハート

 変態盗賊退治の後ロマリア王への挨拶を早々に切り上げ、山間の村カザーブへと辿りつく。
 これはただのカンなのだが、あのままロマリアへと滞在していたら、厄介なことになそうな気がしたからだ。あの冠を届けた際、待っていましたとばかりに出迎え、いたずらっぽく目を輝かせるロマリア王と上品に笑う王妃、そしてまたかとあきれんばかりの大臣とその他大勢…
 これを見た瞬間にアリスの中で関わってはまずいという警報が頭の中で響いた。
 褒美をとらせるというロマリア王の言葉に、急ぎの旅だといいはり有無を言わさず城を出る。ロマリア王のしょんぼりとした残念そうな顔を思い出すと少々罪悪感が沸いてくるが、断った瞬間、あからさまにほっとした大臣とその他大勢の顔を思い出すと、やはり自分の判断は正しかったのだろうと思う。
 そしてロマリアの北の山間にあるカザーブに辿り着く。王都のロマリアに比べると人も少なく地味だし質素だが、町に入ると歓迎するように村人は挨拶をしてくれた。人の暖か味に触れたようでなんだか嬉しい。ロマリアでは町の人は忙しなく通り過ぎるだけだった。
 カザーブは素朴であたたかい、いい村だ。
 今はもう辺りの闇は深く、宿をとって休んでいる。

「ねぇマロウ、何書いてるの?」

 そろそろ暇になってきたので、部屋の机で何か書いている親友に話しかける。

「今日の日記と帳簿」

「見てもいい?」

「うん」

 ふんわりと柔らかい金髪の後ろから覗き込む。
 ノートにずらりと並ぶ数字の羅列を見て一瞬頭が痛くなる。こんなのを書けて理解できるのはすごい事だとアリスは思う。数字はただ並べられているだけではなく、どれも意味を持っていることをアリスは知っている。旅を始めて、アリスはお金に困ったことがなかった。仲間が極端な無駄遣いをしなかったこともあるが、そのほとんどはマロウリアの手腕のおかげである。
 改めて親友の凄さを思う。

「ちょ、ちょっと!これ何よ!」

 数日前の日記の一文を見て抗議する。

―アリスちゃんの恋はまずは素直になる所から始めるべきだと思います。―

「わ、私が恋!?何処の!誰に!?」

「え?シルヴィスさんでしょ?」

「な、なんでそうなるのよ!」

「え、まさか気付いてないの?」

 かわいらしく首を少し傾けながら答えるマロウにめまいを覚える。どうしてそういう風に思うのか、全く繋がらないがこれだけは言える。
 絶対に誤解している。絶対に誤解を解かなくては…!

「全然!なんとも思ってない!」

 なぜか必要以上に焦ってなんとか言ったが、ただ否定するのは、何だか白々しい言い訳だったと自分で思う。失敗だ。

「本当に?」

 思ったとおりマロウの視線はかなり突き刺さる。

「わ、私ちょっと散歩してくる!」

 いたたまれなくなり、部屋を逃げ出した。

 慌てて部屋を飛び出したとはいえ、さっきのは咄嗟に部屋を抜け出すための嘘でこんな夜遅くに散歩をする気はない。だからといってすぐに部屋へと戻るのは危険だ。もう少し、ほとぼりが冷めてからでないとマロウからまたきっと何か言われる。
 物心ついたときから修行ばかりしてきたアリスには色恋話はよくわからない。よく町の女の子が黄色い声を上げながら、お城の兵士の誰やらがかっこいいや最近素敵な神父様が教会に来ただとか、そんな話はしたことない。ましてやそんな理由でお城の兵士の宿舎に差し入れを持って行ったりなど、教会に祈りに行く回数も増やしたこともなかった。そういうの、苦手だ。
 しばらく考え、ルジェットとシルヴィスの部屋へと向かう。
 話題に上がったシルヴィスへ会いに行くのは気が引けたが、部屋にはルジェットもいる。彼ならきっとよい話し相手になってくれるだろうと思ったからだ。
 扉の前に立ちノックをする。
 返事はない。もう一度するがやはり返事はない。

「…留守かな」

 ドアノブへと手を伸ばし、何気なく回す。

「…え、開いた?」

 少し古い扉がキィッと音をたて開く。
 隙間から部屋を覗くが薄暗くよく見えない。誰もいない部屋に入るのは気が引けるがなぜか好奇心が騒ぐ。
 しばらく悩むが、やがて吸い込まれるように中に入った。

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