2nd.
□第1章
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塔
ロマリア王から盗まれた金の冠の奪還を命じられた俺たちは、冠を奪ったとされる盗賊が根城としているシャンパーニの塔に到達していた。
今いる仲間はアリスとルジェット、そして遊び人の人ルビィ。非戦闘員のマロウリアはロマリアにて待機中だ。
はじめは非戦闘員だと思っていたルビィは、危ないから待機するよう説得したが本人の強い希望で付いて来た。
ルビィは戦闘中ずっと遊んでいるが、ひとたびルジェットに危機が訪れると凄まじい戦闘力で敵を退けた。たまたまルジェットが詠唱中の無防備なところに攻撃を受けそうになったのだが、踵落とし一撃でルジェットを襲った魔物を葬ったのは記憶に新しい。ルビィはとても強かったのだ。
回復魔法を使えるのはアリスとルジェットの二人だ。実は俺も使えることは使えるのだが、あまり知られたくはない。勿論誰かが深い傷を負ったときは、そのときは腹を括って使うつもりだが…
そのためアリスが前線で戦う以上、戦闘中の回復役は必然的にルジェットとなる。だからパーティ回復の要のルジェットに心強い護衛が付いたと考えていいだろう。これには正直助かったとシルヴィスは思う。
襲ってきた芋虫の魔物をダガーで斬りつける。どくイモムシという名前の魔物だ。そのままだな、と内心苦笑いする。
すっかり手に馴染んだダガーを戻しているとアリスが隣で不満を漏らす。
「んもぅ!何でこんな所をアジトにしてるのよ!怖いし、寒い!」
塔の外側の壁は無いため、常に風に吹き晒し状態だ。動いていないと寒くなってくる。
「いや、俺に言われてもわからないし」
「同じ盗賊でしょ!」
「俺は盗みなんかしない!」
最近密かな悩みだが、俺はどうやらアリスから余りよくは思われていないらしい。ことあるごとに突っかかられてばかりなのは、きっと気のせいじゃない。
「…話し声がする」
塔の攻略は順調。魔物の襲撃も難なく片付け、最上階に近づいてきたため、注意深く気配を探っていた時の事だった。階段の手前で足を止める。
「どうする?」
「もちろん正面から突撃よ!」
ルビィがウサギの耳を揺らしながら元気よく拳を振り上げる。が、もう片方の手はしっかりとルジェットの腕を掴んでいる。
「バッカ!そんなことしたらこっちが不利だろ?っていうか離れろ」
ルジェットがたしなめる。
「えー!絶対イヤ!」
ルビィが唇を尖らせ不満を上げる。ルジェットを掴む腕に力を込めた事から、きっと後者を否定したのだろう。
「お前ら盗賊退治に来たのか?そういや少し前にロマリア王が勇者に冠の奪還を命じたとか言ってたな…」
背後から突然声を掛けられ全員飛び退くように振り替える。
そこにいたのは波打つ漆黒の髪をした金色の目が印象的な長身の若い男だった。
興味深そうに俺たちを見渡し、俺に視線が止まる。
「珍しい毛色だな、お前が勇者か?」
「ちがう」
魔物とはまた違う威圧感を感じ、手が汗ばむ。この男きっと戦い慣れている。
その横でアリスが言った。
「私が勇者よ」
物珍しそうな視線をアリスに注ぐ。
「へえ?こーんな可愛い女の子だったのか」
「あなたは誰?」
「俺?俺はこのカンダダ盗賊団の頭だ」
盗賊団の頭だと男は名乗った。
「冠を奪ったのはあなた?だったら見逃してあげるから冠を返しなさい」
男が「気の強い勇者さまだな」と弾けるように笑う。
「今回はあんたに免じて返してやってもいいぜ。どのみち返す予定だったしな、売っぱらったら完全にロマリアを敵に回すし」
ひとしきり笑った男が冠を投げる。あわててアリスがそれをキャッチ。
「だったらなんで盗んだんだ?」
ルジェットが問う。
「盗みたかったからだ、それ以外に理由があると思うか」
「それだけの理由で?!」
確かに、そんな理由で国宝級の冠を盗むなんて馬鹿げている。彼に付き合わされた手下たちにほんの少し同情。
「よろしければお名前を教えていただけないでしょうか?勇者様」
おどけながら名前を聞く男に、まだ剣に手を掛けているアリスが少し考えを巡らし名乗る。
男がニヤリと笑う。
「へぇ、気に入った、次に会うときにはぜひともベッドで愛を語り合いたいもんだね」
「な!?」
真っ赤になったアリスに満足した男は、漆黒の髪を靡かせながら階段へと上がっていった。
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