2nd.
□第1章
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瞳
旅の扉を抜けた先の大国ロマリアで、一行は別行動をすることにした。
アリスとマロウリアは王へ謁見を望むため王城へ、ルジェットとシルヴィスは今夜の宿を確保、のはずだったが、生憎シルヴィスと逸れてしまった。
シルヴィスの銀髪は何処にいても目立つだろうと思いすぐに見つかるかと思ったが、この人ごみの中では一人の人間を探すのはなかなか至難の業だった。
そのときだ。異変を感じたのは。
ロマリアの大通りにて、その異変を感じることが出来たのはルジェット・リーンただ一人だった。理由はその場の誰よりも魔法に長けていたから。
勿論ここには魔法を使う者は沢山いるが、ルジェットは賢者の職に就くことを許された者。その幼少時より磨き上げてきた感覚によって常人には感じることの出来ない膨大な魔力の片鱗を感じ取ったのだ。
正確に実はもう一人この異変を感じ取った者がいるがそれはまた別の話…
人はルジェットを天才と呼ぶが、それらは全て並々ならぬ努力の賜物に他ならない。
「こんな街中で…?」
幸運なことに不安から出た言葉は誰にも聞き咎められる事はなかった。
周りの者から不自然にならないように構え、ゆっくりと周囲を巡らし魔力の元を探す。
それは簡単に見つかった。
場所は通りから離れた薄暗い路地の奥だった。
そこにいたのはならず者と絡まれている女。
下品な笑い声を響かせる男に対する女は無表情。だが女の目には確かな殺気と混沌が渦巻いているのをルジェットは見た。
「何やってんだよ!」
咄嗟に止めに入る。
「んだぁ?テメェ、邪魔すんのかぁ!?」
掴み掛かろうとする男の鼻先に杖を突きつけ問う。
「お前が俺に殴り掛るのと俺がお前に魔法を撃つの、どっちが速いんだろうな」
「な、何ハッタリかましてんだよ!そんなに魔法が速く撃てるわけ…「メラ」」
言い終わる前に詠唱なしで魔法を唱える。
火の玉は男のすぐ顔を横切り、後ろの壁を黒く焦がした。
「お、覚えてやがれ!」
お決まりの台詞を残し逃げ去る。
ルジェットは残った女に向き直ると怒鳴った。
「何考えてんだよ!あんな魔力を放出すれば、あの男だけじゃなくお前だって無事じゃなかったぞ!?」
いまいち状況が飲み込めていないらしき女は数回瞬きののち。
「心配してくれてるの?うれしい!でも私は大丈夫よ!」
満面の笑みでルジェットに抱きつく。
突然のことで頭が真っ白になる。
柔らかい感触にうろたえながら、鼻と鼻が至近距離で彼女の目と合った。
「…紅玉(ルビィ)みたいだ」
ルジェットはぽつりと漏らす。
「え?」
「目の色、ルビィみたいだって言ったんだよ」
思わずじっと見つめる。まるで美しく磨きぬかれた誇り高い紅玉のようだ。
そういえば最近珍しい色の人間に会ってばかりだな、と仲間の盗賊を思い出す。
アイツの銀髪も滅多に見ない珍しい色だ、と思う。けれど一度どこかで会ったことのある様な気がするのは気のせいだろうか。
そこまで考え正気に戻る。
ちょっと待て!いま物凄く恥ずかしい事を言わなかったか、俺!?と思うが後の祭り。
「本当!?」とますます熱を上げる女を言いくるめるのは困難を極めた。
そして日差しが傾きかけた頃、何とか逃げる事に成功した。
と、思っていたが数日後。
「ルビィよ、よろしく!」
「よろしくね」
仲間に挨拶をする女を見て、しばし呆然とする。
確かに以前助けた女なのだが、前は何も無かった金髪には、存在を主張するかのように天へとピンッと立っているウサギの耳。そして服装も正直、その、目のやり場に困るものに変わっている。
「お、お前!?その服?!」
「え?だって男ってこういうの、好きなんでしょ?」
くるりとその場で回る。そのたび頭のウサ耳と彼女の体を包んでいるレオタードのフリルがひらひらと揺れる。
好きか、嫌いか聞かれれば確かに…いや、そういうことではない!自分自身に突っ込みを入れる。
体の力が抜けるのを感じながらも次の質問をする。
「ルビィってのは本名か…?」
「あんたがあたしの事、ルビィみたいって言ってくれたのよ。だからあたしはルビィ!」
心底嬉しそうに言うルビィに言葉が詰まる。
ひょっとしてとんでもない女を助けてしまったじゃないだろうか、という考えが頭の中を掠めた。
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