2nd.
□第1章
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旅の意味
レーベにて賢者ルジェットが仲間になった。
勇者が女でも付いてきて来るのか、と問うと「男でも女でも関係ねぇだろ、そりゃ男のほうが力は強いかもしんねーけど」という答えが返ってきたことに安心する。
確かにアリスはそこいらの男よりは強い、という自覚はあった。勿論、旅立つと決めてからはそれなりの鍛錬と教えを説いてもらった。旅立ち直前にシルヴィスに助けられたのはまた別として。
だが女と言うだけでアリスを馬鹿にした輩もいる。
ルイーダの酒場の冒険者は今までアリアハンの人間がアリスに対して思っていたことを見事代弁したといった、と言っていいだろう。
アリアハンの住人が面と向かって馬鹿にしたりアリスを止めなかったのは、アリスがオルテガの娘だったのに他ならない。
そう思うとまたよけいに腹立たしく思う。
「…なによ、私は確かにオルテガの娘よ、娘ってだけよ。そりゃあ父さんのことは大好きたけど、そのことを旅立つ免罪符みたいにしたくない…。私はアリスよ。父さんじゃない。今魔王を倒そうとしているのは…」
父さんじゃなくて私なのに、誰も私を見てくれない。
レーベの村で散歩がてらに一人呟いて見たが、胸のもやもやは消えてくれそうに無い。
胸のもやもやと言えば、最近どうも調子がおかしい。そう、銀髪の盗賊といつも喧嘩ばかりしてしまう。そんなつもりは無いのになぜかいつも憎まれ口ばかり叩いてしまうし、綺麗なエメラルドの目と合うと突然胸がドキドキしたり…
と、見知った銀髪を発見、噂をすればなんとやら。
村のはずれに行くシルヴィスに興味を引かれ、後をつける。
そこで信じられないものを見た。適度な高さの岩に腰掛けるシルヴィスと彼の鞄から姿を見せた…
「ま、魔物!?」
思わず声を上げ、腰の剣に手を伸ばす。アリスに気付いたシルヴィスが必死で弁解した。
「待ってくれ、こいつは悪い魔物じゃないんだ!」
信じられない、という思いで銀髪の盗賊とそのそばにいる青い体のゼリー状の魔物、スライムを見る。
「ほ、本当だよぉ!」
突然魔物が喋ったことに驚く。魔物が、スライムが喋るなんて聞いたことが無い。もっとも一部の高等な魔物は喋ることができるが。
「心配だから付いてきただけだよ、シルヴィスは箱入りだから」
青い体を震わせながら言ったスライムの言葉に閃く。
「…ああ、どおりで!おぼっちゃまなのね!」
「は?!なんだよそれ!」
すぐそばでシルヴィスが抗議の声をあげるが、スライムの言葉に妙に納得する。
「だから鍵開けとか出来ないのね!」
「そうそう!」
いつの間にか意気投合したスライムと視線が合ったことに気付く。
「…悪い、魔物じゃないみたいね」
「スラりんはいい奴だよ」
シルヴィスは言った。
目の前の魔物を見つめる。確かに、悪い恐ろしい魔物には見えない。それにスライムの、アリスを伺う少し不安そうな大きい目は愛嬌があって可愛いではないか。
でも、魔物によって父オルテガの命が奪われたのもまた本当の事だ。正直魔物が憎い、母と祖父、アリスからオルテガを奪った魔王バラモスが憎らしい。
目の前のスライムが手を下したわけではないだろうが、複雑な気持ちになる。
「みんながみんな、悪い魔物じゃないよ…」
ポツリと漏らしたスライムの言葉はアリスの心をほんの少し柔らかくした。
「…わかったわよ、みんなにはナイショにしとく」
折れたのはアリスの方だった。
「よろしくね、私はアリス」
「ボクはスラりん!」
嬉しそうに頭のとんがりを揺らしながらスライムは名乗る。
まだ少し抵抗があるが、このスラりんとなら仲良くなれる気がする。
「アリス」
不意に名前を呼ばれそちらに振り向く。そこにあったのは最上級のシルヴィスの笑顔。
「ありがとう」
胸を突き破るんじゃないかというほどの心臓の鼓動と、顔まで原因不明の熱が上がり火でも上がるんじゃないかというほどの熱さに悩まされながらも、憎まれ口を叩かず普通に喋れたことを動転する頭の片隅で嬉しく思った。
〜気の向くままに後書き!〜
二人だけの秘密v作っちゃいました☆そんなお話です。
アリスの方が惚れているのでアリスのほうが劣勢です。いっぱいいっぱいです。
でも、付き合うことになったら立場は逆転しそうな二人だな、と思います。あ、でも先に惚れたほうが負けっていうしな…
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