2nd.

□第1章
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仲間

 勇者が旅立った後町は次第に落ち着きを取り戻してはいるが、ルイーダの酒場はまだまだ野次馬の冒険者で溢れかえっていた。

「た、旅立ったぁ?!」

 うろたえ驚く男に野次が飛ぶ。

「残念だったな、でも幸運だと思うぜ」
「気にすんなや、ニィちゃん」

 緑翠の髪をした男が訪れたのはそんな冒険者で賑う時間帯だった。
 野次を飛ばす輩にルイーダは鋭い視線を送る。どんな馬鹿もこの酒場で彼女に逆らうものはいない。
 しばらくして店内は落ち着く。

「そうよ、残念だったわね、一足違いよ」

 あわよくば勇者に付いていこうとした冒険者の一人だろう、この店の店主ルイーダが説明する。腰にある杖と浅黄色のローブが男を魔法使いであることを示している。
 なるほど、確かに旅慣れた雰囲気が漂っている。

「ほんの2日ほど前だから、急げば追いつくかもしれないわね」

 そう、勇者は幼馴染の商人と珍しい銀髪翠眼の盗賊と旅立った。

「ああ!くそっ2日前だな!?」

 男が緑翠の髪をわしわしと掻き毟る。
 落ち着いてきたらしい男がカウンターに古びた地図を広げる。

「珍しいわね、世界地図なんて滅多に見ないわよ…」

 ルイーダは興味深く覗き込む。
 その国の周辺だけ地図は数多く出回っているが、世界地図は滅多に無い。国周辺の地形を他国に知られるというのは致命的だ。地図を手に入れた国は侵略しやすくなるが、その逆もまたありうる。そのことを恐れた各国の王たちは当然地図の作成に制限をかけた。
 もっとも今はそれどころではないのだが。
 だが、そのため世界地図を持つものは限られている。

「アリアハンはここね」

 白い指が島国の一つを指す。

「そこから…」

 一番近い町は…

「レーベね。レーベならここから川を越えて北西の方角に1日ぐらいよ」

「助かった」

 情報を提供したルイーダに男は礼を言いながら感謝の意を込め、ほんの少し頭を下げる。
 目的地の決まった男はカウンターに広げた地図を手早くしまい、店を後へと歩き出す。

「追いつけるといいわね、魔法使いのお兄さん」

「魔法使いじゃねぇよ、賢者だ」

 酒場中が呆気にとられる中、振り返った緑翠の賢者は不敵に笑った。



 私の親友が恋に落ちました。とっても嬉しいことです。
 つい2日前私たちは魔王バラモスを倒すため旅に出ました。私は魔物とは戦えないけど、どうしてもアリスちゃんの役に立ちたかった。だから、少し無理を言ってしまいました。
 アリスちゃんが好きになった人は優しい綺麗な顔立ちの盗賊さんです。銀色の髪の人は初めて見ました。
 今はアリスちゃんと2人でナジミの塔と呼ばれる所に行っています。
 私は今レーベ村でお留守番をしています。洞窟や危ない所ではこうして安全な所で待っていること、それがアリスちゃんと約束した旅に付いていく条件です。
 もちろんその間は何もしないで待っているんじゃなく、旅の途中で拾った道具などを高く売ったり安く手に入れたり、少しでもアリスちゃんの旅が楽になるようにしています。
 そして余った時間はこうして日記を書いたり…

「どーして盗賊なのに鍵開けも出来ないのよ!」

「人には得手不得手ってものが…というより犯罪だろ、それ!?」

 宿屋の下から賑やかな声がした。よく知った声にマロウリアはペンを置く。帰ってきた。
 階下に下りると二人の無事な姿が確認できた。そのことに安心する。

「おかえりなさい」

 声を掛ける。

「ああ、ただいま」

 先に返事をしたのはシルヴィスだ。にっこりとマロウリアに微笑みかける。そして押しのけアリスが訴える。

「きーてよ、マロウ!シルヴィスってば盗賊の癖に鍵開けも満足に出来ないのよ!」

「だからそれは犯罪だって…」

 そしてまた言い合いが始まる。一人蚊帳の外となったマロウリアは苦笑いを浮かべて様子を見守る。
 まったく、この親友は気付いているんだろうか。さっき微笑みかけられた私に少し嫉妬してしまった事に。

―アリスちゃんの恋はまずは素直になる所から始めるべきだと思います。―

 最後まで書けていない日記の締めくくりに、この一文を書こうと思った。

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