2nd.

□第1章
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笑顔

 外で魔物に襲われていた女の子を町に送った後、今夜の宿を探す。
 アリアハンの城下町は夜だというのに活気に満ちていた。もうすぐオルテガの子が旅に出る、腕利きの冒険者たちは新たに誕生する勇者に付いていこうと競ってアリアハンに来ているからだ。
 そのため宿も空きが無い。今夜の宿をどうするか。
 不意に鞄の中でもぞっと動く気配がし驚く。

(お前…!見つかったらどうするんだよ!?)

 慌てて小声で鞄を諌めると大人しくなる。そのことに安堵し言葉を続ける。

(もう少しだけ我慢してくれ)

 溜め息を漏らす。諦めにも似た感情で野宿を覚悟した。
 本当は宿を取ってから行きたかったのだか、予定を変更。まずはアリアハンで唯一冒険者の登録が出来るルイーダの酒場へと足を向ける。登録するとある程度アリアハンを自由に回れる、冒険者用の簡易な身分証明も兼ねている。
 幸運な事に酒場はまだそんなに人はいなかった。

「いらっしゃい」

 奥から黒髪の艶やかな女性から声が掛ける。察するに彼女がルイーダだろう。

「…あら、銀色の髪なんて珍しいわね、綺麗だわ」

「ありがとうございます、冒険者登録に来たんですが、今出来ますか?」

 ルイーダの率直な意見に照れながらも笑顔で受け答えする。

「登録の方ね」

カウンターの奥に下がり帳簿を持って出てくる。

「名前は?」

「シルヴィス」

「職業は?」

「盗賊です」

ルイーダがきょとんとする。

「そうなの?てっきり僧侶か何かだと思ってたわ。気を悪くしたのならごめんなさい」

「盗賊に見えないとよく言われます」

力なく笑う。その後簡単な質問に受け答えし登録が完了した。

「あ、すみません、この辺りでどこか空いている宿はありませんか?あたった所どこも満室で…」

苦笑いをしながらルイーダが答える。

「無理も無いわね、皆勇者見たさにアリアハンに集まって来てるもの。貴方もそうでしょ?」

「…まあ、そうなります」

同じくこちらも苦笑いで返す。

「何か条件はある?」

「できれば安くて食事が美味しい所」

「そうねぇ、あ、うちの二階宿になのよ。ここらじゃうちの店は酒場で通っててね、酒場は繁盛するんだけどお陰で宿はさっぱりで。食事もそれなりのものを用意させて貰うわ、どう?」

「お世話になります」

 願ってもない申し出に即答する。どうやら野宿は免れそうだ。



 案内された部屋で一息つく。簡易ながらも手入れが行き届いた良い部屋だ。一時は町に来ても野宿かとうんざりしていたが安心する。ルイーダに感謝だ。

「もう出てきても大丈夫だ」

鞄の中の相棒に声を掛ける。

「あー!ずっと鞄の中だと肩が凝って仕方ないね」

 その言葉を待っていたとばかりに飛び出したのはスライムと呼ばれる魔物だ。青いゼリー状の体のどの辺りが肩なのかはよくわからないが、体ををふるふると震わしながら伸び(らしきもの)をしている。

「いきなりアリアハンに行くって言い出した時はビックリしたけど、なんとか着いたね。勇者に会ったらもう旅は終わりでしょ?」

青い体の相棒を指で突く。

「いや、しばらく勇者と一緒に旅をする予定」

「ええ!?駄目だって!帰んなくて大丈夫なの!?」

体を震わしながら抗議する。

「大丈夫、ちゃんと書置き残してきたし」

「そういう問題?」

「でも着いて行くかはまだ考え中。まず会ってみないとな」

軽口を言い合いながらその時を待つことにした。



 そして勇者がルイーダの酒場へ訪れる。
 驚いた。勇者は助けた女の子だった。
周りの冒険者は期待外れな勇者に落胆を隠そうともしない。

「女!?男じゃないのかよ」「本当に倒せるの」「やはり着いて行くのは…」

 冒険者たちの陰口に反感が芽生える。
少なくとも彼女は魔王を倒す気だ。でなければ、一人で町の外で修行なんかしたりしない。
 やりきれない彼女の表情を見て、決意。
 遠巻きに観察している冒険者を後に勇者に歩み寄る。周りの者が注目するのが分かったが涼しい顔で名乗る。

「俺の名前はシルヴィス、よかったら一緒に行ってもいいか?」

 周りの者が驚く。

「正気か」「馬鹿かアイツ」

 馬鹿で結構。開き直りながら返事を待つ。
 暫くして勇者が緊張した面持ちで頷くのを確認。自然と顔が綻ぶ。そして勇者に笑いかけた。

「よかった」

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