2nd.
□第1章
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出会い
勇者が成人と認められる少し前のこと。
勇者を目指す者が数時間前、町をあとにした。
名前はアリス・フロル。
名前から判るようにアリスは女だ。
髪は全体だけ肩につかない程度に切りそろえ、横髪だけほんの少しだけ伸ばしているが、特に意味は無い。
強く強調するような胸は無いが、体つきは女性特有の緩やかな線を出しているし、膝までのショートパンツから白くて細い足が伸びている、一見ただのボーイッシュな女の子だ。
ただ見る者が見れば、戦うには申し分ない鍛えられた筋肉がバランスよくついているのがよくわかる。
今回町の外に一人で出たのは、あと数日までに迫った成人後の魔王討伐の旅に少しでも慣れておくため。せめてこの辺りの地形だけでも把握しようと思い、単独でそれも内緒で町を出た。
アリアハンは成人するまで、一人で町の外には出てはいけない決まりがある。理由は簡単明快、魔物が出るためだ。若い命が魔物によって散らされないようにとアリアハン王が定めた事なのだが、勇者を目指している身としては外での実践が積めないことは大きな痛手だ。
もちろん、剣の修行や魔法の勉強は出来うる限り頑張ってきた。剣技ではこの前、師匠であるアリアハンの兵士長に勝つことが出来たし、魔法では初級の回復魔法のホイミと、同じく初級の攻撃魔法、メラを放てるまでになった。
どちらも初歩の魔法だが回復魔法と攻撃魔法は対なる存在。同時に習得することは悟りをひらいた賢者以外には不可能と言われている。そのため自分が使うことの出来るこの二つの魔法に、誇りと自信を持っていた。
日が暮れ、辺りが暗くなってきた頃に魔力が尽きた。
初めての戦闘では、ほぼ無傷で勝利を収めることが出来た。スライムと呼ばれるもっとも低級の魔物だ。
それから数回戦闘をしたが、無傷とまではいかないけれど特別深い傷も負っていない。
初めての実践経験の結果は上々。上機嫌だった。
後はアリアハンに帰り、暖かい食事につき、今日の成果を母に話そう。町の外に勝手に出たことには、少しお咎めを受けるかも知れないが、無事に帰れば問題ない、そう思っていた時だった。
自分を見つめる無数の目に気付いたのは。
ガサガサと音を立て草むらの影から姿を現したのは、大きなカエルに似た生物。たしか図鑑で見たフロッガーという魔物。
「…あ」
あっという間にそれに囲まれた。
戦闘が始まる。
剣を構え戦闘態勢に入るが先を越された。
舌によってくりだされる無数の攻撃。
知らなかったわけではない、夜の魔物は昼に出る魔物より強い。だが、浮かれていた。初めてでここまで戦える自分に酔っていたのも確かだ。これは愚かな自分が引き起こした致命的なミス。
怖い!
恐怖に体が支配されていく。
避け損なったものが右肩を少し抉る。
「いっ…つ!」
今はまだ致命傷となる攻撃はなんとか受け流してはいるが、それもいつまで持つかわからない。
「きゃあ!?」
絶望的な状況の中、突然視界を覆ったのはうす紫色の煙。突然のことに魔物もアリスも混乱する。
「ギャッ!?」
近くから魔物の短い悲鳴が響く。
「走って!」
そして聞きなれない男の声。
あっという間に助け起こされ、手を引っ張られる。そしてされるがまま逃げる。背後からは魔物の咆える声と追ってくる足音が迫ってくる。
あとはもう無我夢中だった。どれくらい走ったのか、わからなくなったところで、ようやく背後の襲撃者の気配は感じなくなった。
しばらくして男が止まる。
「…危なかったな」
まずは自分に言い聞かせるように、そしてアリスの方に向き直る。
「粉は吸ってない?大丈夫?」
「…あ、大、丈夫」
しばらく理解した。あのうす紫の煙は自分を逃がすため、男が放ったものだと気付いた。
よくよく男を観察する。アリアハンではまず見かけない珍しい銀色の髪、今は月の光を浴び神秘的な色で輝いている。そして宝石のエメラルドを連想させる綺麗な目。
「そう、よかった」
心臓がひときわ大きく脈を打った。
〜気の向くままにあとがき!〜
お題・出会いを達成しました!言わずもがな勇者ちゃんと盗賊くんの出会いです。
今回はおっ!ちょっと脈アリ!?という感じです。(それを世間では一目惚れというのか?)
ともかく勇者ちゃんが正式に惚れちゃうのはルイーダの酒場です。ちなみに盗賊くんが放った薄紫の煙は毒蛾の粉だったりします。
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