2nd.
□第1章
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青春
ガザーブでノアニールの噂を聞きつけ、やってきたが見事に村人全員が眠っていた。
それも普通の寝かたじゃない。あるものは立ったまま寝ていたし、あるものは仕事の途中で眠っていた。武器の手入れの途中で眠らされたのだろう、磨き布と武器を手に持ったまま器用に眠っている者もいる。
実際にこうして村の様子を見るまではただの噂だと高を括っていたが、なるほど、これはただごとじゃないな、とルジェットは思う。
「こら、お前足」
「え、何、足?」
「花、踏み潰してる」
「それがどうしたの」
「どうしたのってお前な…せっかく綺麗に咲いたのに」
「…ルジェット、あたしよりコレの方が綺麗だって言うの?」
不穏な空気を醸し出しながら、ルビィが果てしなく暗い目をして言う。まるでこの世の花という花を滅ぼしかねない様子に慌てて言い方を変える。
「バッカ!そうじゃねえだろ!…俺は言いたいのはな、花だって今を生きているってことだよ」
「何それ?」
首を傾げながら、きょとんと目を瞬かせる。肩で揃えた金髪がさらりと揺れる。小動物のように愛らしく首を傾げる様子は、下手な男なら一殺だろう。
「花が綺麗?そんなの思ったことないわ」
「…お前が独特の価値観を持っているのはよーくわかった」
少しため息をつく。
綺麗なものを綺麗だと思えないことは、それはとても悲しいことだ、とルジェットは思う。
人間、多少感覚の違いはあるものの、ルビィのそれはその年頃の女性としては、ある種の感情が著しく欠けているものがあるように思う。
きっと今まで花を慈しむような環境で育たなかったのだろう、彼女の不遇をほんの少し思いやり同情する。
少し考え込み、足元にある花へとしゃがむ。
「ちょっとこの分からず屋の為に協力してくれよ」
植物とはいえ、命は命。先ほどルビィに教えたばかりだから、感謝の念と懺悔の念をほんの少し織り交ぜながら、小さく白い愛らしい花を一本手折る。命の尊さを自分ひとりで教えることは到底無理だ。
「ほら」
例えば花を貰うことによってまずは喜びを感じてくれれば、と手折ったその花を、そのまま不思議そうに見ていたルビィに差し出す。
「わ、くれるの?」
「ほら、貰えると嬉しいだろ?」
「うん!ルジェットがくれるなら綺麗に思える!」
ニッコリと笑い花をもったまま非常に上機嫌でくるくるとその場で回る。
「そ、そうか」
ゆらゆらと揺れるウサ耳を見ながら、ルジェットは頬を掻いた。ここまで喜ばれるのも正直照れる。
それから数日後、エルフが原因だと唯一起きていた村の老人から聞き出し、エルフの里の捜索を開始した。
そして妙にしょぼくれたルビィがいた。こんなに元気のない彼女は珍しい。いつもはルジェットが勘弁してくれ、と思うほどスキンシップが激しいが、今日はまったくそれがない。心なしか頭にあるウサ耳もしょんぼりしている様に見える。
「どうしたんだよ?」
不思議に思い問いただせば、申し訳なさそうに、顔を伏せぽつりとルジェットに漏らす。
「…ルジェット、花枯れちゃった」
ああ、そういうことか、とルジェットはピンと来る。つまり彼女は以前ルジェットがあげた花を枯らしてしまったため、申し訳なく思っているらしい。
「アリスやマロウに聞いて枯れないように頑張ったのに…!」
花を枯らせないようにするなんて、きっと時でも止めないと無理だろうに、と苦笑いを漏らす。それこそ神の所業だろう、と。
「命のあるものは皆いつか土に還るんだ。花も人も魔物も、例外なくみんなな」
「ルジェットも!?」
今気付いたと言わんばかりにルビィが慌てる。
「…当たり前だろ、お前俺を何だと思ってんだ?神でも何でもねえんだから、生きれて百年かそこらだろうが!」
「…百年」
赤玉の瞳がみるみると潤み顔が歪み、ギョッと慌てる。
「ちょ、ちょっとまて!俺まだ十八かそこらだぞ!?まだあと八十年は生きる予定だぞ!?勝手に早死にさせるなよ!?」
そのあとどんなにルジェットが宥めても、ルビィはしばらく落ち込み元気がないままだった。きゅっとルジェットの法衣の裾を掴んだまま離さなかった。
〜気ままにあとがき〜
青春してます。
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