1st.

□06世界の中心と勇者の心
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「いーか、坊主?よーく見とけよ」

 道具屋のおっさんに促され、カウンターを挟んでじっと見つめる。

「この草をな、こう使って…」

「え!?」

 おっさんが消えた!
 慌て周辺を見回すが、棚に並ぶ商品と空っぽになったカウンターがあるのみ。 すると突然俺の鞄が宙を浮く。

「わ、あ、俺の鞄!?」

 鞄の中には金やら旅の必需品がたんまりと入っている。無くなると俺は当然無一文になり、大変困る訳で…

「わ、わわわわ…!」

 宙に浮く鞄はとっくの昔に俺の背を超え、慌て垂れ下がる鞄の紐を掴み、これ以上飛んで行かないようにぎゅっと目をつぶりぶら下がる。

「どうだ、凄いだろう?」
 おっさんの声にうっすらと目を開けると、ニンマリと笑いながら俺の鞄を持っていた。

「な、なな!?」

「これはな消え去り草っつって使うと名前通りしばらく姿が消える代物だ。今ので分かったと思うが、効力は短いが悪戯に持ってこいだぞ!」

 …すっげぇぇー!!
 おっさんの説明に思わず怒りを忘れて目が輝く。
 欲しい!絶対欲しい!!

「この消え去り草、たったの200Gだ!どうだ坊主、買うか?」

「買う!絶対買う!…でももうちょっと安くなんねぇ?ほらっおこずかいじゃ足りなくて…」

「仕方ねぇな、大負けに負けて100!」

「もう一声!」

「…50だ!これ以上は負けらんねぇ!」

「買った!束にしてくれ!」

「…200G以上持ってんじゃねぇか。ったく、しっかりした坊主だぜ。悪戯もほどほどにな」

 わしゃわしゃと頭を撫でられた。
 上機嫌で店を後にする。



 ここはランシール。
 別名、世界のへそ。町の少し外れに堂々と鎮座する神殿が治める、信仰の町だ。
 レイアムランドの双子の姉妹の話が本当なら、ここに青いオーブがあるらしい。
 レイアムランド…
 コンパスが壊れ海で遭難したり、辿り着いた先で魔物に襲われたり、しかも襲って来たのはスノードラゴン。ドラゴン族は魔物の中でも最上位の種族だ。その中でも下位とは言え、凄まじい強さを誇る。勝てたのが奇跡みたいだ。というより俺がドラゴン族と戦うということ自体が、以前の俺から考えると有り得ないことだ。
 ゼフィルから旅に誘われた時はこんな事になるなんて、思ってもみなかった。
 もっとも大変な事だけじゃなく、与えられた事の方が大きいが。さっきの様に買物をするというのも、以前の俺からじゃ考えられない。こっそり盗みに入る。
 そんなわけで何だかんだ言いつつも、結構今の状況が気に入ってたりする。

 思い返せば初出航は散々なものだったが、ゼフィルが勇者である以上、絶対に行かなければならない場所に偶然にも辿り着いたのだ。
 偶然?本当にそうなのだろうか?
 偶然にも遭難し、偶然にもレイアムランドを見つけ、偶然にも神殿を見つけ、偶然にもそこで魔王への手掛かりを見つけた。
 …本当に偶然なんだろうか。
 目に見えない力が働いて、なるべくしてこうなったのでは?
 そんな考えが頭の中でぐるぐる回る。
 あーもう、こんなのらしくない!
 頭をぶるぶるさせながら、そんな考えを振り払う。

「リゴット、こんなところにいたのね」

 聞き覚えのある声に振り向く。

「ナビエル」

「神殿へ入る許可を頂いたわ、行きましょう」



「じゃ、パッと行ってパッと戻ってくるわ。だから早く機嫌直せよ」

「………」

 そんなゼフィルを恨めしげに見上げる。
 神殿の奥にある試練の洞窟に入れるのは一人、つまりゼフィルだけ。
 必然的にお留守番となった俺はどうにもそのことが納得出来ずにゼフィルを睨む。

「とにかく何が起こるか分からないから気を付けて。薬草はちゃんと持ったの?」

「備えあれば憂い無し、準備は怠るな」

「二人とも心配性だな、大丈夫だって」

「リゴット」

 ハヤトに促され仕方なく口を開く。

「…お前、怖がりなんだから無理すんなよ。…いってらっしゃい」

「うん、行ってくる」

 ぶっきらぼうに言えば、ムカつく事に満面の笑みが返ってきた。
 更に言えばそれで俺の機嫌がちょっと直ったのが更にムカつく…
 くそぅ。


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