1st.
□05揺れる船と世界の事情
5ページ/5ページ
5
雪原を抜けた所にそれはあった。
雪に負けることのない白亜の神殿。
俺が始めに鷹の目で見た場所。目指していた所。
雪と氷の世界の中で、堂々と鎮座しているそのシンプルかつ、荘厳な外見の建物は見る者が心を洗われるような、感動に体を震わせ圧倒させる不思議な力があった。
だが同時にずっと見つめていることが恐れ多いような、直視しがたい落ち着かない何かにも苛まれる。
綺麗過ぎて少し怖い。それが俺の率直な感想だ。
「入ってみよう」
誰にともなく呟いたゼフィルがふらっと神殿の中に入っていくのを慌てて俺たちが追いかける。
美しい女神が彫られた彫刻や古代の神々の戦いが描かれたレリーフが施されている回廊。
「古代の神々の聖戦…こんな立派なの本でも見たことがないわ」
全員が息を呑むのがわかる。こんなの俺も初めて見た。
魔物の気配が一切しない。
「ここは一体なんなのだ…?」
だが同時に人の気配もしなかった。俺たちの足跡だけが神殿に響く。
「扉だ…」
そして見事な装飾が施された飛び切り大きい扉へと辿り着く。
開けることも引き返すことも出来ないまま、しばらく俺たちは扉の前へ佇む。開けるのが、少し怖い。
そんな俺たちの気持ちを知ってか知らずか、ゼフィルが扉へと右手を差し出す。
強い意思を帯びた全てを見透かすような深い湖の瞳に通った鼻筋、ゼフィルの綺麗な横顔。差し出される右手。そして巨大な美しい扉。目を逸らすことが出来ない。
なんだか神聖な儀式でも見ているような気分だ。
触ったと言ったほうが正しいのだが、扉は重苦しい音を立て開いた。
部屋に入り、まず目を引くのは中央にある圧倒的な存在感を出す白い塊。
「…た、まご?」
ちょうど部屋の真ん中に楕円形の形をした白いものがそこにあった。
守るように辺りを囲む六つの台座がある。
卵の影から誰かがいった。
「古の大戦より眠りに落ちたラーミアの卵を」
「私たちはずっと守ってきました」
卵の影から現れたのはまったく同じ姿をした女二人。
「ようこそレイアムランドへ」
「ようこそ雪と氷に守られた聖なる大地へ」
鈴の鳴るような声で淀みなくこの聖なる大地の名前をいった。
「私たち姉妹はラーミアの卵と共に、ずっと貴方が来るのを待っていました」
「私たち姉妹はラーミアの卵と共に、ずっと勇者が誕生するのを待っていました」
両手を前に組み綺麗に微笑み、歓迎の意を表す二人の姉妹。
本来ならば人を惑わす魔物かと疑うが、正真正銘こいつらは聖に属すものだ、と理屈ではなく本能で全員が感じ取る。
だが、この目の前の姉妹は女神というには人染みていて、人というには清すぎる、そんな印象を受ける。
虚を付かれた俺たちの中から最初に戻ったのはナビエルだった。
「不死鳥ラーミア?」
眉を顰めるナビエルに姉妹が説明する。
「魔王が居を構えるのは遥かネクロゴンドの山頂」
「不死鳥ラーミアの助けがなければ辿り着けません」
「赤は絆、青は心、緑は情、紫は力、黄は運、銀は勇気」
「六つのオーブに認められし勇者のみ、ラーミアを甦らせることが出来るでしょう」
「オーブ」
口に出して言ってみる。聞きなれない単語だ。今の話、信じていないわけじゃないが眉唾な話に他の二人も困惑した様子を隠せない。
「なんだか漠然とした話ね」
「他にも何かヒントは?」
今度はハヤトが問いかける。
「私たちが知るのは青の在り処のみ」
「世界の中心にて心を試されることだけ」
世界の中心。またまた聞きなれない単語にそろそろ頭が混乱してきた。
一方ナビエルは心当たりがあるのか、形のよい眉を寄せながら何か思い出そうと考え込んでいる。
「アープの塔にオーブを捜す手助けがあります」
「山彦の笛の音色にきっとオーブは答えるでしょう」
…もう俺は何も考えないことにした。
それまでずっと黙って姉妹の話を聞いていたゼフィルが口を開く。
「なあ、ラーミアの封印を解くしか、魔王の処へ行けないんだよな」
「ネクロゴンドには瘴気が渦巻いています」
「人の身だけでは辿り着くことは到底不可能」
「けれど忠実なる神の僕、ラーミアならば瘴気を昇華し進むことが出来ます」
「そしてそれはラーミアでなければ不可能なこと」
「だったら俺たちの他に誰か来なかったか?例えば黒髪の強そうな戦士とか」
「いいえ、人の身でここへ辿り着いたのはあなた方だけ」
「いいえ、人の身でここへ足を踏み入れたのはあなた方のみ」
「…ふうん」
姉妹の答えに満足も落胆もせず、ゼフィルはただ返事を返しただけだった。
〜気ままにあとがき〜
漂流の末、辿り着いたのはレイアムランドでした。
何もかもすっ飛ばしていきなりこんなところです。そりゃ魔物に苦戦してします。
1stトップへ戻る