1st.
□05揺れる船と世界の事情
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興奮しながら真っ白い大地に足を下ろす。遠くから見たときは鈍色だったそれは近づくにつれ鮮明になり、雪が積もったどこまでも白い大地となった。
まっさらな綺麗な雪に、歩くたび俺の足跡がつくのに妙な感動を覚える。さくさくと順調に歩を進める。面白くなってきた。
先ほどまで曇っていたが、分厚い雲の隙間から太陽が顔を出す。
「…うわぁ」
日に照らされた視界の中の雪がチカチカと眩しく綺麗に反射する様に、目を細め思わず感嘆を漏らす。
「…見事だな」
「氷の大地なんてはじめて歩くわ」
あとからハヤトとその後にナビエルが続く。いつもと同じような二人だが、心なしかハヤトの声が弾んでいるように思うし、ナビエルは物珍しそうに辺りを見回し、滑りそうになったところ、近くのハヤトに助けて貰ったりしている。
そんな二人の様子に大人になっても初めての事って誰だって嬉しいんだろうな、とちょっと親近感が湧き嬉しくなる。
「リゴット、リゴット!」
少し離れたところからゼフィルの声が聞こえたので振り向く。
「…ぶっ!!」
途端に顔面に冷たいものが直撃。バランスを崩しその場で尻餅をついてしまう。雪がクッションになり衝撃を和らげてくれたが、尻からだんだん雪の冷たさがズボン越しに伝わる。
顔を勢いよく振り顔についた冷たいものを払えば、離れたところでゼフィルが腹を抱えて笑っていた。顔に当たった冷たいものは、どうやらゼフィルが雪を丸めて投げたらしい。
「な、なにしやがるーー!」
頭に血が上る。雪をすばやくかき集め適度な硬さに丸め、数個ゼフィルに投げつける。
…全部避けられた。
「よーけーるーなー!!」
地団駄を踏めば「当たったら痛いだろ?」とまたひょいっと俺の投げた雪球を避ける。
…ちょっと楽しくなってきた。こうなったら絶対当ててやる!と半ば意地になり雪を投げる。ゼフィルも負けじと雪を投げる。
「…子供は元気ね」
少し離れたところで俺たちのやり取りを見ていたナビエルだが、ちょうどゼフィルの投げた雪球が命中。体に当たった雪がずるっと地面に水を滴らせながら落ちる。
「あ、悪ぃ」
悪びれた様子もなく形だけ謝るゼフィルに、無言で雪をかき集め投げる。身軽に避けるゼフィルがまた雪を投げ、ナビエルに命中させる。
せっかくだから俺もハヤトに向かって雪球を投げる。
「あ、悪ぃ」
体に当てるつもりが見事顔面に命中。さすがにちょっと悪い気がしたので形だけ謝る。
「…いい度胸だ」
ナビエルと違って肉体派のハヤトの投げる雪球は切れがよい。
「わっわっわ!」
紙一重で全身雪だらけになりながら避け、また雪を投げ返す。
結局全員ぐっしょりと服を濡らしてしまい、その日の島の探索は明日に持ち越しとなってしまった。
船の中で一晩過ごせば、昨日あれだけ暴れ倒したのにまた綺麗な足跡一つない白い大地が広がっていた。
「…言っておくけど、今日はちゃんと探索するわよ」
ゼフィルと一緒に雪球を作ろうとまた座りながら雪をかき集めていると、ナビエルに釘をさされてしまった。いそいそと二人で雪をもとの位置へ戻す。
改めて辺りを見渡すと一面真っ白い雪だらけで、どこに行けばいいのかまったく見当がつかない。
「リゴット、鷹の目を」
ハヤトに促され、あっと気付く。そうだった、俺、遠くを見渡せるんだった。
鷹の目というのは盗賊だけが覚えれる盗賊魔法だ。魔力が届く範囲なら何処でも自由に見渡せる。
「暁の鷹の目は大気を駆け巡る、その全てを見通す力が有るだろう」
ゆっくりと俺の魔力が大気に離散し溶け込み、辺り広がる。意識を集中させながら辺りの様子を探る。
「ずっと遠くに建物が見えた」
「…ゼフィル?」
俺の指した方向をぼうっと見つめていたゼフィルへナビエルが声を掛ける。
「ん?ああ、行ってみようか」
舞い降りる雪の中を4人で歩く。雪は踏みしめるたび深くなっている気がするのはきっと気のせいじゃない。
先頭を行くのはハヤト、続いてゼフィル、その後ろに俺、しんがりはナビエルだ。
歩いても歩いても何処までも変わらない氷と雪の大地に、さっき俺が見えた建物は幻だったんじゃないかと正直疑ってしまう。
一瞬の出来事だった。
突如近くの雪山からとてつもない速さの攻撃が繰り出される。
不意を突かれて対応が遅れたハヤトの肩が、鋭い何かで切り裂かれる。左肩をパックリと裂かれ、流れ出た鮮血が辺りを赤く染め雪を溶かすのを見た。
悲鳴にも聞こえるナビエルの声がハヤトに呼びかける。
「ハヤト!!」
近くの雪山から血が滴る鋭い爪が伸びているのを確認。
崩れた雪の中から姿を現したのは、真っ白い鱗で覆われた巨大なドラゴンだった。堂々たるドラゴン族の風格と余裕を漂わせながら鋭い牙を剥き、こちらを威嚇している。
地面の氷塊からはメキメキと音を立ては巨大な手と顔を象った氷の魔神が次々と姿を現し取り囲む。
最悪の状況で戦いは始まった。
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