1st.

□03広い世界のちょっと端っこ
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「そっちにいったぞ!」

 草原の下で威勢のいい声が響く。声に反応し身構え手に持った武器を投げる。

「たあ!」

 手から放たれたそれは弧を描きながら勢いよく目標に命中、直撃を受けたホイズントードはぴくぴくとしていたが、やがて動きを止めた。
 手へと吸い込まれるように戻ってきた武器を慣れた手つきでキャッチする。くの字のように曲がった形をしていて、うまく投げれば遠距離から全体を攻撃できる優れた武器でブーメランとよばれる。俺のはそれをさらに改造し殺傷力が高められたやいばのブーメランとよばれるものだ。まんま名前の通りくの形にトゲトゲが付け加えられているものだ。
 わしわしと頭をかき混ぜながら剣をしまったゼフィルが褒めてくる。

「うまくなったなー、最初は取り損ねてたとは思えないくらいに」

「一言よけいだ!」

 笑顔でからかってくるゼフィルに頭の手を払いながら反論する。

「ま!これも俺の教えが良かった賜物…感謝しろよー」

「…よくブーメランという珍しい武器があったな、少し見せて貰ってもかまわないか?」

 ハヤトの申し出にしぶしぶやいばのブーメランを渡す。

「アリアハンにはメダル集めてる変人がいるんだよ、それその景品」

「いつのまに行ったの?」

「あー、ちょっとばっかり前に」

 ナビエルの質問に少し気まずそうにゼフィルが笑う。

「一人寝は寂しいとか言って女の所にでも帰ってたんでしょう」

 呆れたように冷ややかな目でゼフィルを睨むナビエル。

「そんなんじゃねぇって」

「どうかしら、不潔だわ」

 弁解するゼフィルに取り付く島もないナビエル。そうか、これが以前聞いた尻にひかれるというやつか。
 妙に一人で納得しているとハヤトが貸したブーメランをお礼と一緒に返してきた。

「もう橋を渡る、魔物も急に強くなるから気を抜くな」

「わかってるよ」

 少しの油断が命取りになる、それはもう知っている。ハヤトの忠告に少し不機嫌そうに不貞腐れたように答える。
 橋を渡り終えたあと見たこともない魔物が沢山出てきた。羽があるネコみたいなキャットフライ、巨体のあばれザル、蛾に顔が付いてる人食い蛾、ビックリ動物天国だ。
 それらも助けを借りながら難なく撃破。
 だからほんの少し調子に乗ってしまった。
 森を少し入ったところで、不意打ちで魔物が襲ってきた。

「リゴットは前に出ちゃ駄目よ!」

 あばれザル4匹、キャットフライ3匹、余りの数の多さに後ろに一度下がらされたが、一匹一匹確実に仕留めていくゼフィルたちを見ていると俺にも一匹ぐらい倒せるはず、と思いながら前へと出る。
 不意に気配を感じ飛びのくと地面から衝撃が伝わる。あばれザルだ。今まで俺がいた地面はハンマーで殴られたように凹んでひび割れていた。ヒヤリとする。危なかった。
 ブーメランを大きく振りかぶり投げる。俺の手から離れたそれはあばれザルの元へは行かず、バキバキと木々の枝を破壊した後威力が削がれ、うっそうと生い茂る枝に絡まってしまった。
 顔が蒼白になっていくのが自分でもわかる。しばらくの鬼ごっこののち木に逃げ場を阻まれ立ち尽くす。

「…ぁ」

 恐怖で体が凍りつき一切の自由がきかなくなる。俺を見て口を歪めたあばれザルが手を大きく振り上げる。逃げなきゃいけないのに足は根っこが生えたように動かない。ただただ目を見開き大きく自分目掛けて振り下ろされる拳を見る。
 しばらく、俺はわかった。みんなが俺を守ってくれていたことに。武器がブーメランなのは魔物に近づかなくてもいいため。近づかなくていいことで、魔物の脅威から幾分か逃れられる。だってブーメラン投げるのは後衛で、前衛が、ゼフィルとハヤトがいるかぎり、俺が直に魔物の脅威に晒されることは滅多にない。
 今回は数が多すぎてそんな余裕がなかった。だからナビエルは俺を下がるように言ったのに、それなのに…

「リゴットォ!!」

 視界の端にいる誰かが叫びながらこちらに駆けつけようとしていたがきっと間に合わない。
 俺の慢心。全ては俺の愚かさが招いたこと。
 迫る拳、駆け寄るみんなも全部おそい。すべての時がゆっくりと流れているように感じる。きっと最後の瞬間に今までの人生を思い出し現世を惜しむ時間を与えられているからだろうが、残念ながら今の俺の頭は真っ白で何も分からない。
 俺に出来たことといえば、迫り来る最後の瞬間の予期し、少しでも恐怖を和らげようと目を閉じることだけだった。

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