小話

□中学生×家庭教師
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こういう事態を想定外または予想外、あるいは奇想天外といいます。

「……戯言だけどね」
「いや、傑作だろ。俺は今最高にウキウキしてるぜ」
「ただの勉強会だろ」
「いーたんのおかげで俺は結構勉強好きだぞ」
「そりゃよかった」

最近、僕は課題が忙しく、人識君の家庭教師の時間が取れなくなっていた。
だったら俺がいーたんの家に行って家庭教師すればいいだろ、という人識君の提案でそうする事になった。
家庭教師の家にくる生徒なんて聞いた事ない上に、零崎家と僕の家は結構離れているので、正直どうかとは思ったのだけれど、人識君が押し切る形でこういう事になった。

僕としても自分の領域が他人に踏み入れられるのは、あまり気が進まなかったのだけれど……まぁ、人識君ならいいかもしれない、と何故か思った。
アパートの人だってよく来る訳だし。

「うわー…すげー。ほとんど何もないし狭いな」
「君の家と比較するな」
「単なる感想だよ。ふーん…」
「ほら、勉強するよ」
「うーす」

いつものように問題を解きはじめる人識君。
迷いはないようで、問題の空欄は次々と埋まっていく。
僕はしばらくそれを見てから、課題に没頭する。課題をしながらわからない所を聞くというのが、僕の家で家庭教師をする条件だった
人識君と僕がペンを走らせる音や窓の外の雑木林の風になびく音だけの、静かな時間。
外はからっとした天気で、冬にしては暖かい気温だ。

数時間が経った頃、人識君が口を開いた

「…………なぁ」
「何?どこかわからない所あった?」
「ハグしたい」
「……うん」

ぎゅうう、と。
人識君の小柄な身体が僕の身体を暖める。
不意に、耳を触られた

「っ、何すんだよ」
「あれ、ここ実は弱い?」
「びっくりしただけだ。つーか耳元で喋るな。息がかかって気持ち悪い」
「かはは、おもしれーないーたん」

戯言だ。
ただ耳を触られただけなのに、僕の心臓は速度を増していく。
成長期特有の変わりかけの声が、僕の耳元をくすぐる。
そのまま髪に触れられ、ほんの少しびくっとする
いやいや冗談だろ。何を焦っている。相手は男だろ。しかも年下。少年と言って差し支えない年齢だ。うん。落ち着け僕。

「なぁいーたん…なんか身体固くね?」
「いや別に。人識君、そろそろ離れようか」
「嫌だ」
「…こういう事は可愛い女の子とするもんだろ」
「いーたんってそういうのなさそうだよな」
「僕だって可愛い女の子に抱き着かれた事くらいあるさ」
「……」

友達にだけど。
うん、大人気ないな、僕。
何をムキになっているんだ。
しかし人識君は黙ったまま動かない。
しばらくしてするりと腕を離し、やっと離れる、と安堵した時、顔を両手で挟まれ、顔を近づけられ



「!!!」

あまりの衝撃に目の前の少年を突き飛ばして壁の限界まで後退りしてしまった。
ドンッ、と頭をぶつける音がする。僕のものか人識君のものか両方なのかはわからないがそんな事はどうでもいい。今起きた出来事に比べれば。


こいつは一体 何をした?




「……いってぇ…」
「今の、何」
「あー…ごめんなさい」
「そうじゃないだろ。どうして?」
「……」


バクバクと心臓が鼓動を繰り返す。顔が熱くなるのを感じる。
人識君の顔をまともに見れない。
訳がわからない。人識君はどうして、どうしてこんな事を。
盗み見るようにして視線を上げると、同じように真っ赤な、でも真剣な表情がそこにあった。



「俺、いーたんが好きだ」




僕を真っ直ぐ見据えて人識君は言った。
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