小話

□中学生×家庭教師
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ちょっと待っててくれ、弟と連絡取ってくるから。と零崎先生が別室へ去ってから5分ほどが経過した。
ぼくは舞織ちゃんに出されたお茶を飲みながら、ぼんやりと周りを見渡した。
剣山に活けられた花というのは普通の家ではなかなかお目にかかれない、と思う。流石大学助教授の家だと適当な感想を考えていると、ある物が目に止まった。

「家族…写真?」

5人の人間がこの家をバックにこちらを見ている。先生と、舞織ちゃんと……人識というのはこの小柄な少年だろうか。カメラから目を逸らして、ぷいっと横を向いている。肩まである男の子にしては長めの髪は、若干邪魔そうだった。というか学ラン着てなかったら女の子に見える

「…あれ?」

違和感。
ぼくが始めこれを家族写真と思ったのは、家がバックだったからだ。しかし、よく見てみると後ろの大人二人は誰とも似ていない。だとしたら先生の友人だろうかと思ったが、しかし、そうすると、舞織ちゃんと双識先生だって似ていない。人識君と思われる少年も、誰とも似ていない。
さらに言うなら、家族構成で言う両親の存在が、どこにも見当たらないのだ。たまたま写ってない可能性だってあるが、果たしてそれは偶然なのだろうか――と、そんな事を考えながら写真を見つめていた時。


くり


筋が震
えた

ぱっと後ろを振り返っても、誰もいない。
とその時、後ろから誰かに押し倒され、喉元に何かを突き付けられるのを感じた。

「よぉ、あんたが家庭教師の兄ちゃんか?」

背後から、声変わりを迎えたばかりのような微妙な高さの声。
右腕を拘束され、何か重みがかかるのがわかる。
おそらくぼくの上に座っているのだろう

「そうさ。はじめまして、かな。零崎人識君。始めの挨拶がこれだなんてちょっとセンスを疑うな。悪いけどどいてくれる?」
「かはは、いいぜ。俺の要求を呑むならな」
「何かな」
「悪いが俺は受験する気がない。従って勉強する気もない。だからあんたにはお引き取り願いたい」
「それは無理だ。君の勉強の依頼をしたのは君のお兄さんだ。そのお兄さんがいない所で君のお願いを勝手に聞く訳には行かないだろう」
「それこそ、何で俺のいない所で俺の話を勝手に進めるんだよ」
「知らないよ。自分で聞いてくれ…で、どいてくれない?」
「嫌だ。帰るって言うまでどいてやんねぇ」
「……ふぅ」

仕方がない。首に当たっている物体が気になるが、切れ味が良いとはとても思えない。
ぼくは左手で勢いをつけ身体を回転させ、上に乗っているであろう人識君を突き飛ばした。
人識君はそれにひるまず、先程の刃物でぼくの心臓を狙う。すかさずぼくは人識君の顔を目掛けて手を突き出した。



膠着状態。


人識君はぼくの心臓ぎりぎりに30cm定規を突き立て、
ぼくは人識君にデコピンをお見舞いする直前だった。

……定規とはいえ心臓はいかんだろ。

定規を放り出し、人識君は笑う

「……かはは、傑作だぜ」
「いや、戯言だろ」
「気に入ったぜ兄ちゃん。勉強と名前教えてくれよ」
「その前に言うべき事があるだろ」
「……いきなり襲ってすんませんでした」
「よくできました」

写真では気づかなかったが、人識君の顔には大きな刺青があった。
その刺青に相応しくない笑顔で人識君はにかっと笑う。


その後、ようやく戻ってきた双識先生が人識君を笑いながら、かつ威圧感を出しながら(なかなか出来る事じゃない)叱っていたのは省くとして。

顔面刺青の中学生と
ごく普通の大学生の出会いは
定規とデコピンから始まった
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