小話

□中学生×家庭教師
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回想。
家庭教師を解雇されました。
以上。



僕は自宅で仰向けに転がる。
ここの所は人識君に振り回されっぱなしだったというのに、とどめを刺されるとは思わなかった。

零崎家はとんでもない一家だ。うん。


「……戯言だ……」


喪失感。

僕は
僕はやっと自覚する。


「なんで行っちゃうんだよ……」

僕の事こんなに掻き回しておいて
必要なくなったらさようなら、なんて。

ふざけんなよ。
責任取れよ。

「……なんで好きになっちゃったのかなぁ……」

女々しいにもほどがある自らの呟きを遮るみたいに、僕は腕で顔を覆った。

まさか中学生に本気になるとは思わなかった。
いなくなる事なんて想像もしていなかった。

初めて会った時のじゃれあい。
くだらない雑談。
僕を抱きしめる感触。
僕にキスしたあの日。

嫌な思い出じゃないはずなのに、思い出す度に心臓を握り潰されるような感覚に襲われる。


僕は起き上がって牛乳を一気飲みする。人識君が勝手に持ち込んだものだ。消費期限は一日過ぎていた。
パックを潰しながら、これからの事を考えた。

おそらく僕はこれからもそこそこに大学に通い、そこそこにサボり、適度に玖渚に会ったり姫ちゃんに勉強を教えたり哀川さんにいじめられたりするのだろう。
人識君に会う前の生活に戻るだけだ。

出会わなければよかった、
なんてありきたりな台詞を吐くつもりはないけれど
自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。

零崎先生が言っている事はわかる。
だからこそ人識君はER3プログラムへ行くのだろう。
もっと広い世界を見るのは彼にとってプラスになる上に、
家を出て自立する事ができる。
もちろんある程度の支援は必要だが、それだって慣れて来れば不要だろう。

そして何より、僕と会う事はまず無い。


「…………。」

わかっている。わかっているんだ。
恋をしてしまったからいけなかったんだって。

もし僕が恋をしなければ、人識君はそのうち諦めて、零崎先生が上手く丸め込んで普通の高校へ進んだだろう。
零崎先生は本当はER3に送り出すつもりなどなかったのだから。

……全く、大したブラコンぶりだ。

しかし、僕が彼に恋をした事で、結果的に彼の望みを叶える事になったのは少しだけ愉快だった。

僕は心の中で笑う。

「感謝しろよ、零崎人識」
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