小話

□中学生×家庭教師
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「やぁ伊井君。君は今大学以外にする事はあるかい?」

大学助教授の零崎双識先生にそう呼び止められたのは、講義がすべて終わり日の落ちかけた夕方だった

「はぁ、まぁ。たまに近所の子の家庭教師をするくらいはありますが」
「そうか。それはいい。実はね、私の弟の勉強も見てやってくれと頼むつもりだったんだよ。弟は頭は悪くないんだが、あまり真面目に学校に行かなくてね、少し手を焼いているんだ。時給は弾むから私の弟の面倒もお願いできないかい?」

うふふ、といつものように笑みを浮かべる。
この人が笑顔以外の表情を浮かべた所を、ぼくは見た事がない。きっとこの人は、その学校に行かないという弟が髪を変な色に染め、大量にピアスを開けたところで表情を変える事はないだろう。ただの想像だけれど。

「何故僕に頼む必要があるんですか?」
「私の話なんて、あいつはてんで聞かないからねぇ…現役の大学生に教えて貰った方が効果があると思ってね。それで、引き受けてくれるかい?」
「…まぁ、構わないですよ。それで、弟さんっていくつなんですか?」
「ん?中学3年生の受験生さ」




零崎先生の自宅は、なかなかのお屋敷だった。古いながらなかなか丁寧に手入れされていて、代々大切にされてきたんだろうと推測できた。

「ただいま、人識いるかい?」
「お邪魔します」
「あ、お帰りなさい、双識お兄ちゃん」
「ただいま、舞織ちゃん。人識を知らないかい?」
「人識君ですか?さっき帰ってきましたけど、またどっかに行っちゃったみたいですねぇ…」
「そうかい、ありがとう。お客様を連れて着たから、お茶を用意してくれるかな」
「了解ですー。ゆっくりしてって下さいね」

舞織ちゃんと呼ばれたニット帽の女の子は、ぴょこんとぼくに会釈すると家の奥へと消えて行った。

「…可愛らしい妹さんですね」
「うふふ、そうだろう?君にはやらないぞ」
「…………」

助教授はシスコンのようだった
まぁそれはともかく。
ぼくと零崎人識の縁は、ここから始まったのだった。
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