小話

□高校生0×大学生1
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「ぜろっち久しぶりーー!」
「わ、んなっ?!」

いつものようにいーたんの家に遊びに行き、雑談したりいちゃついたりした帰り道。

知らない男に抱き着かれた。

「ぎゃは、何だよその顔。僕の事を忘れただなんてそんなふざけた事は言わせねぇよ?」
「……出夢、か?」
「ぎゃはは、わかってんじゃねぇか」
「いや……うん」
「何その間。ああ、僕があんまりにも格好よくなってるからときめいちゃってんだな。かっわいー」
「何でそうなる」

匂宮出夢だった。
長かった髪は肩に付かない長さにまで切られ、にやにやと笑う瞳は一層鋭さを増していた。
細身のパンツに、黒のタンクトップと革のジャケットを着ていて、いーたんとは別の中性的な印象を醸し出していた。

「ぎゃはは、人識もでっかくなったなー。僕より小さかったのに」
「ふざけんなお前に身長で負けた事なんかねぇよ」
「そうか?少なくとも舞織には負けてただろ」
「今は俺の方が高いぜ」
「女の子と張り合ってどうすんだよ」
「うるせぇ、お前が持ち出したんだろうが」

出夢と電話で話す事はあったが、まさかこんな変化を遂げているとは思わなかった。
舞織ちゃんは兄貴の前で出夢の事を話すのを避けている上に、
俺と舞織ちゃんのスケジュールがずれていて遭遇率が低い、という事もあり
出夢についての情報は「元気にしている」という事くらいしかわからなかった。
だからこうして会えたのも、全く予想外の事だった。

「で、何だよその格好」
「似合ってるだろ?胸触ってもいいんだぜ?」
「いらん」
「じゃあ僕に触らせろ」
「何でだよ」

出夢は俺の胸板を感触を確かめるように叩いたり、俺の周りを回りながらじろじろと俺を観察した。
何だか親戚のおばちゃんに値踏みされている気分になる。

「……はぁ、やっぱ本物の男には敵わないんだな……」
「何だそりゃ。お前半年前まで女の子にしか見えなくても全然気にしなかったじゃねぇか」
「ぎゃは、まぁな。心境の変化ってやつ?」
「あっそ」
「興味なさそうに言うなよ。出夢君ちょっと傷ついちゃうぜ」
「ああ悪かった。とりあえず俺はお前を女だと思った事はない」
「!」

出夢は少し驚いたように目を見開くと、直後ににやりと笑って「そうだったな」と言った。

「なぁ、久しぶりに僕の家来いよ。いちゃいちゃしようぜ」
「いちゃいちゃはしないけどだらだらならしてやってもいい」
「よっしゃ、決まりだな」


出夢は楽しげに歩き出す。
俺はその後ろ姿を見ながら、傑作だぜ、と呟いた。
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