小話

□高校生0×大学生1
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「そういえば、人識っていつまでこっちにいるんだ?」

人識が日本に帰ってきてから一週間。
彼は毎日のように僕の家に遊びに来て、僕と抱き合ったり雑談をしたり、学生のふりをして僕と大学の講義を受けたりしていた。

長期休みなのはわかるが、知らないうちにいなくなるのはいやだった。

「んー、新学期が始まるのが8月下旬くらいだから、それまではいるつもり」
「まぁそんなもんか。…って、休みは6月中旬くらいからだよな?今もう7月下旬なんだけど」
「あ、えっと、本当はもっと早くいーたんに会いたかったんだぜ?」
「何?言い訳タイム?」
「いやあの、学費のバイトとか補習とかで…な?」
「ふーん……」
「ちょ、ごめん!待たせてごめんってば!」
「別に。怒ってない」
「あああもう……」

困っている人識を見るのは楽しかった。
僕はもう少しいじめてみる事にする。

「学費のバイトっていうけどさぁ……ER3って国の補助が出るから、割と安いはずだよ?違う?」
「まぁそうなんだけどさ……。兄貴からも金借りてて、早く返したかったんだよ」
「だったら何で日本でバイトしなかったの?零崎先生に返すお金なら日本でもいいでしょ?」
「いやまぁ……辞めるのも申し訳なかったっつーか…」

ばつが悪そうにうなだれる人識。
うん。いじめすぎたかも知れない。
僕はぎゅ、と人識を抱きしめる。

「なんてね。本当は零崎先生と大喧嘩して自宅から出してもらえなかったんだよね」
「何で知ってる…隠してたのに」
「零崎先生から聞いた。大変だったね。一緒にいられなくてごめん」
「別にいーたんは悪くないさ。これは俺の問題だ」
「零崎先生は君の事を心配してるんだよ」
「いーたんと別れた時に俺が受けるダメージが大きすぎるってやつか?ふざけんなっつーの。俺はいーたんと別れるつもりなんかねぇよ」

ちょっと赤面。

零崎先生が鋭い笑顔で、僕に
「弟を壊したら君を許さない」
と忠告して去っていったのを思い出す。
これは一応和解という事になるのかもしれないけれど、確かめる術はなかった。
何しろ、彼とはそれきり会っていないからだ。
同じ大学内にはいるはずなのだけど、彼の講義を取っていないというだけでこんなにも遭遇率が落ちるのは意外なものだ。戯言だけど。


まぁ、仮に何らかの事情で僕と別れたとしても、人識はもう大丈夫だろうと何となく思う。
兄と本気で喧嘩出来たことがそれを物語っている。
だからこそ零崎先生も忠告だけで引いたのだろう。

もちろん僕だって別れるつもりはないけれど。

「で、いーたん」
「何かな」
「キスしたい」
「……勝手にすれば?」
「顔真っ赤」
「うるさい」

好きだけじゃ駄目な事もあるけれど。
今はこの時間を大切にしたいと思った。
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