小話

□中学生×家庭教師
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「なぁいーたん、いーたんって恋人とかいんの?」
「恋人?いや、別に」
「じゃあ好きな人は?」
「いや、別に」
「じゃあ昔どんな人が好きだった?」
「……いや、別に…」
「いーたん俺の話ちゃんと聞いてる?」
「いや、別に」
「ちゃんと聞いてないのかよ!」
「……課題やろうか人識君」

この辺は背伸びしていても中学生だなぁと思いつつ、参考書のページをめくる。
人識君は、古文かよー面倒だなー、言いつつ真面目に源氏物語を読んでいる。相変わらずやる気はあるみたいだった


「光源氏ってさ、自分の母親似の女好きになるじゃん。て事は、母親似の男がいたらそいつの事好きになんのかね」
「さぁね…その場合は母親より源氏自身に似ると思うんだけど。確か源氏も桐壺似だっただろ?」
「かはは、新手のナルシストだな」
「いや、究極のマザコンだろ」
なんてくだらない雑談をしつつ、問題を解いていく。
三分の二ほど解き終えたところで、コンコンと戸をノックする音が聞こえた

「人識君、いーさん、お茶持ってきましたよー」
「うい、サンキュー舞織ちゃん。そこ置いといてくれ」
「了解ですっ」
「ありがとう、舞織ちゃん」
「うふふ、人識君がこんなに真面目に勉強してるのは、いーさんのおかげですからね」
「舞織ちゃん、俺はこの通り勉強で忙しいから邪魔すんな」
「お茶を持ってきた妹に対して、それはあまりに冷たくないですか人識君……まぁいいですよぅ。私も受験生になったらいーさんに教えてもらいますから」
「はぁ?!駄目だっつーの。いーたんは俺専属!」
「人識君はいつまで受験生やるつもりですか…ではっ、よろしくお願いしますね、いーさん」
「……はぁ」


よろしくされたのは人識君の事だろうか。
それとも舞織ちゃんの事だろうか。
どっちにしてもぼくとしては微妙な気分だった。


「……人識君、俺専属って何だよ…」
「俺専属家庭教師に決まってんだろ。大体舞織ちゃんは勉強出来るんだからカテキョなんか必要ねぇよ」
「人識君だってそうだと思うけど」
「俺だっていーたん以外のカテキョならいらねぇさ」
「……随分と過大評価してくれてるみたいだね」
「かはは。なぁいーたん、抱きしめタイムー」
「はいはい…」


ぎゅ、と身体を抱きしめられる
僕だって大柄ではないけれど、人識君は小柄なので抱きしめられているというより、抱き着かれているという感覚だ。
しかしそこに違和感はない。
それが逆に違和感だった。


「いーたん」
「何」
「もしも、光源氏に好かれた男がいたとしてさ」
「そりゃ紫式部もびっくりの仮定だね」
「そいつはそれを受け入れるのかね?」
「…さぁ?源氏は男にも好かれる人格者だから、相手によっては受け入れられるんじゃない?ただ、書いたのは女性だからね…だから源氏が男を好きになるっていう前提に無理があるな」
「…だな」

人識君は、僕を自分の身体にさらに引き寄せた

「所詮、物語と現実は違うか…まぁいいさ、時間はあるんだから」
「何の話?」
「教えない」

かはは、と笑って僕から離れる。
そして問題の続きを解き始める。

……まるで何もなかったかのように

そこで気づいた
僕は人識君の何を知ってる?
僕は人識君の何を知りたい?

もしかしたら両方の答えが、全部、なのかもしれなかった。

……いや、それは戯言だ
僕と人識君はただの家庭教師と生徒だ。
それ以上もそれ以下もない

「…ふぅ」

最後の問題で悩んでいる人識君を見ながら、僕はため息をついた
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