小話

□中学生×家庭教師
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どのくらいたっただろう。
はっ、と人識君が止めていた息を吐く。
少し離れて彼を見ると、案の定顔を真っ赤にして混乱していた。

「えーと、ああー…う、いーたんが、俺を好き?本当に…?」
「嘘だけどね」
「うえ?!」
「っていうのも嘘」
「あ、う、えええええ…?な、何で…?」
「さぁ、何でだろうね?自分でも何で君みたいな奴を好きになったのか全然わからない」
「えええ…」
「うん、人識君、教えてよ。何で僕は君を好きになったのか」
「いやっ、そんな事言われても!ていうか顔近い顔近い!」
「あれ?僕に何の断りもなくいきなりキスしたのは誰だったかな?」
「うあ、えっと、それはその」
「ふむ…この距離で何もしてこないって事は、やっぱり君じゃなかったんだ」
「俺ですごめんなさい!」
「最近記憶が曖昧でね…で、僕は誰が好きなんだっけ?」
「なっ」
「ヒント1。僕のファーストキスの相手です」
「そうなの?!」
「ヒント2。その人は僕の目の前にいます」
「うあ」
「さて、答えは誰でしょう」
「…………俺」
「よく出来ました」

頭を撫でてみた。
人識君は真っ赤な顔で視線を泳がせていた。

「まぁ、そういう訳だからさ。僕を忘れたいなら勝手に忘れればいい。だけど振って欲しいっていうお願いは聞けないな」
「……ずるい」
「突然ER3に行っちゃうのはずるくないのかよ」
「ごめん…」


まぁそれに関しちゃ、僕にも責任はあるのだけど。

「……というか、兄貴が俺にER3を薦めた事と、いーたんが俺を好きな事に何の関係があるんだよ…」
「うーん、保護者としての責任と、兄としての家族愛?」
「きめぇ」

一蹴しやがった。
それはそれで零崎先生が可哀相だとは思うけれど。

人識君は深呼吸をして、僕を抱き寄せた。

「いーたん…好きだ」
「うん」
「すっげー好き。今嬉しくて死にそうなくらい好き」
「うん」
「なんかもうずっとこうしてたい。ER3もこれからの事も全部忘れていーたんの事だけ考えていたい」
「うん」
「だけど…もう決めたんだ。中学卒業したら変わるって。兄貴の思惑に嵌まるのも釈然としないけど、俺は一度世界を見たいんだ。だから……俺、行くよ」
「……そう」
「絶対、今より強くなって帰ってくるから。だから、その時まで待っててくれますか?」
「……恥ずかしい台詞」
「う、うっせぇ」
「今ここで誓いのキスしてくれるなら待っててあげるよ」

あの時は突き飛ばしてしまったけれど、今なら向き合える。
僕らは見つめ合った。
人識君の顔が近づく。
息がかかる。
目を閉じる。


この日僕らは、恋人同士になった。
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