小話

□中学生×家庭教師
21ページ/25ページ

人識君は渋っていたものの、風邪引かれたら困るから、と僕が言うと遠慮がちに部屋に入ってきた。
僕の部屋にはジュースなんて洒落たものはないので、水道水を出した。


「……本来なら、追い返すべきなのかもしれないけどね」
「ごめん。すぐに帰るから」
「いや、そこまでは言ってないけど」
「……えーと、とりあえず報告です。俺、零崎人識は無事にER3プログラムの転入試験に合格しました」
「……おめでとう。君ならそうなるだろうと思っていたよ」
「ありがとう。いーたんのおかげだ」
「そりゃ皮肉か?」
「え?何で?」
「何でって…」

だって零崎先生が彼にER3を薦めたのは、僕が君を好きになったからだろ、と僕は心の中で呟く。これが皮肉でなくて何だと言うのだろう。

「というか、君はお兄さんから僕と会う事を禁止されてないのか?」
「別に兄貴がどう思ったかなんて事はどうだっていい。ただ俺は…いーたんに会うのが怖かったんだ」
「何故?」
「何故って……あんな事しちゃったし。家庭教師の時も俺には構って来ないし。アメリカ行くって言っても反応薄いし」
「……え、あ、ああ…」
「嫌われてるのも嫌だけど、何とも思われていないのはもっと嫌だ。それを確かめるのが怖かったんだ」
「……」
「俺は明日、アメリカへ発つ。だけど今のままじゃいーたんの事を忘れられない。だからいーたん、俺を振ってくれないか?」

唖然。
いや……うーん。
今の僕はすごく間抜けな顔をしてるに違いない。

対する人識君は、今にも泣きそうな顔で僕を見つめている。

……可愛いなぁ、と思った。

「えーとね、人識君。君は何か勘違いをしているんじゃないのかな?」
「え?」
「じゅーでんかいし!」

抱き着いた。
身体が硬直するのがわかる。
僕はそのまま彼の耳元で囁く。

「まず一つ目。あの時のキスは嫌じゃなかったよ」
「んな?!」
「二つ目。家庭教師の時に構わなかったりアメリカの反応が薄かったのは、告白がストレート過ぎてどう接していいか分からなかったから。まぁ、正直僕も混乱してたんだ」
「…うん」
「で、三つ目。これが一番重要なんだけどね。零崎先生は、どうしていきなり君にER3行きを薦めたんだと思う?」
「そういえば……事情が変わったとしか言われなかったな。いーたんに関係がある事なのか?」
「というか、僕が原因」

僕は彼をさらに強く抱きしめる。

「僕が君を、好きになってしまったから」

息を止める音がした。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ