小話

□中学生×家庭教師
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光源氏は究極のマザコンだとかそんな雑談をしたのはいつだったろうか。

僕は天井を仰ぐ。

「……いや、伏線っぽい発言ではあったけどさ……」
「ん?何か言ったかい?」
「いえ、ただの戯言です」
「そうかい。話を戻そう。先程も言ったが、伊井君が人識の心を開くという目論みは大筋では成功したと言えるだろう。しかし、恋愛が絡むのなら話は別だ。私は同性の恋愛に関しては特に問題視していない。そんな事は些細な問題だ。私が危惧しているのは、本気で恋愛をするには、人識はまだ幼過ぎるという事だ。」
「……だから、アメリカへ?」
「もちろんそれだけじゃない。世界を見ていろいろ学ぶのにER3ほど適した場所はないと私は思うし、弟は常日頃から家を出たいと言っていたからね」
「でも、普通の高校へ通わせるつもりだったのでは?」
「出来るならこんな早くに弟を手放したくはない。しかしそうも言っていられなくなった。今だって既に手遅れだ。何故なら伊井君、君も人識に恋をしているからだ」

息が止まる。
零崎先生は能面のような顔で僕を見る。

いや、もちろん何度も指摘されてきたし
自分でも薄々感じてはいたけれど
でもそれは確信があったり決定的であったりした訳ではなく
あくまで仮説の域を出なかった類のもので

……そんな言葉は通用しそうになかった。


戸惑う僕にはお構いなしに、零崎先生は話を続ける。

「実際、君と弟は相性もいいと思う。まるで鏡を見ているような気分になるくらい、君は弟と似ている。君が人識の母親に似ている事も含めてね。しかし、だからこそ危険なんだ」
「……」
「今の弟と君では、お互いに共倒れしてしまう。君も弟よりは大人とは言え、私から見ればまだまだ人生経験の足りない子供だ。この人しかいない、という思い込みだけで付き合った結果、破綻してしまえば、人識はより心を閉ざしてしまうだろうね。だから」

零崎先生は僕を見つめる。
僕も零崎先生を見つめる。
ああ、そういう事か。

「君はもう弟とは会うな」
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