小話

□中学生×家庭教師
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いーたん、キスしようぜ
『え、ちょ、待、人識く、んぐ、んん…………』
…………
『…………ん、んぅ…ふ…』
かはは、いーたん色っぽい
『は……や、人識君……あ…どこ触って…っ』
かは、わかってるだろ?
『…あうう……年下のくせに…』
いーたん、こっち見て。いーたん、好きだよ。
『………僕も、君が……ん…』
いーたん
いーたん
いー…
いー…





「いの字?」

気がつくと朝だった。
枕元には隣人のみいこさんが立っていて、
何故かスーパーの袋を下げていた。

「……おはようございます、みいこさん…どうしたんですか?」
「これ、山菜。鈴無が手土産に持ってきたんだが、私一人じゃ食べ切れないから」
「ああ…ありがとうございます」
「あと、うなされてるようだったから。起こして悪かった」
「いえ…こちらこそすみません」
「じゃ」



山菜をちゃぶ台に置くと、みいこさんは出ていった。
今日のみいこさんの仁平の柄は「楽観」だった。
……なかなか考えるものがあるかもしれなかった。


まぁそれはともかく。

「何て夢見てんだよ、僕…」

人識君に犯される夢を見たなんて、ましてそれが気持ち良かっただなんてとても言えたものではない。
夢の中で身体をまさぐられた感覚が蘇り、顔が熱くなる。
思わず「夢が深層心理だっていうのはデマのはずだ」と独り言。

ぎりぎり夢精していなかったのが救いだった。
みいこさんに知られたら僕は恥ずかしさで自爆する自信がある。


トイレに立って昨日の事を思い出す。
たかがキスじゃないか。いや、そりゃ初めてが男だとは思わなかったけど、自分の中でキスという行為は決して価値が高いものではなかったはずだ。
もちろん誰とでもできるという意味ではないが、してもしなくてもそれほど自分に影響を与えるものではなかったはずだ。多分。
急にされてしかもそれが男で年下で生徒だったから動揺しただけだ。

自問自答に戯言を並べてみても、心臓の速度は収まらない。
しかもあいつその後に何て言った?僕が好きだって?


「戯言だろ……」


人を好きにならないこの僕を?有り得ない。馬鹿げている。
きっと彼は何か勘違いをしている。それが何かはわからないが。
うん、そうに決まってるじゃないか。

みいこさんにもらった山菜を切り刻みながら僕は外の景色を眺める。
雑木林に風が強く吹き付け、今日は寒そうだな、人識君は今日も学校か、風邪引かないといいんだけど……と考えた所で
思考を巻き戻す。いかんいかん、山菜がみじん切りになってしまう。


――俺、いーたんが好きだ

ストレートすぎる告白は、何度も僕を掻き乱す。




僕は朝食を食べたら出掛ける準備をすることにした。
今日は久しぶりに玖渚の所へ行こう。
アポ無しだけど多分あいつは家にいるはずだ。と思いながら。
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