小話

□零僕
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とくとくと、規則正しい心音が、背中から伝わる。
今俺の後ろにいる無表情で無気力で無関係な少年は、深い眠りについていた。

優し過ぎるが故に
傷つけられて。

「……傑作だぜ」

こいつを襲った黒装束は、こいつが泣き叫ぶ所を見たかったのか
目を閉じる所が見たかったのか
単に痛めつけたかったのか、それはよくわからない。

ただ、こいつは何があっても泣き叫んだりしないし
目を閉じたりもしない。
それは俺が一番よく知っている。

……まぁ、今は眠らされて目を閉じているけれど。
鏡に映った俺は、相変わらずすやすやと寝息を立てている。


傷つけられる痛みを知らないから
他人を傷つける事で存在を確認する俺と

傷つけられる痛みを知らないから
自分を傷つける事で存在を確認するこいつ

鏡の向こう側は
弱さと脆さと優しさ。


なぁ知ってるか、鏡の俺。
痛みを感じないっていうのは、
強くて弱いんだぜ。

痛みを知らないが故に何処までも戦えるが
痛みを知らないが故に限界をあっさりと越えてしまう

例えるなら、両刃の剣


だけどお前の場合、痛みを知らないくせに優しいなんてのは、ただの愚か者だ。
だからそこに付け込まれて今みたいに殺されかけたり愛されたりする。

かはは。
俺は、すやすやと寝息を立てる俺に唇の形だけで話しかける
お前はいつだって貧乏籤だ。

多分その返答は
戯言だね
だろう。

まぁ、いいさ
お前が嫌だって言っても
俺が近くにいるときは全力で守ってやるから。



+++
黒装束に襲われた後の人識語りでした
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