拍手小説

□君
1ページ/1ページ

病床についてどれくらい経ったのだろうか―。私は今でも夢を見る。
「君」の夢を――。




「あー、また雨だ〜」
廊下に立って、空を見上げる君の姿。少しどころか、凄く残念そうな顔をしているので、少し笑ってしまう。驚かそうと足音を忍ばせ、背後に立つ。
「沖田さん、驚かそうって思ってませんかぁ?」
背を向けたままそんな事を言われて、ぎくりとする。
「なーんで驚いてくれないんですか〜?」
『つまらない』とでも言うように頬を膨らませ、唇を尖らせる。
「考えてる事くらい分かるよ。
鉄君とは違うけど、分かりやすいところあるから」
くすくすとそんな風に笑う君に私も笑って――。
「で、どうして雨だって落ち込んでるんですか?」
その場に座り、濡れた地面を見つめる。
「どうしてかなぁ?」
隣に座ると困ったように笑う。
「なんだか、これからよくない事がどんどん起きちゃいそうっていうか・・・」
そこで言葉を一旦切ると、涙を堪えるかのように笑う。
「沖田さんが・・・居なくなっちゃいそうで――」
私は、ニコッとわらって、
「居なくなりませんよ、私は。簡単に消えるつもり・・・ありませんから」
と言うと、こくりと頷く君。


そこでいつも目が覚める。
先に消えたのは君の方。何も言わずに、居なくなっちゃって。でも、まだ私の夢に出てくる。
「ゴホ、ゴホゴホ・・・。ケホ・・・」
でも、病床にあっても・・・
「簡単に消えてあげない・・・」
夢に出てくる君のお陰で、生きていられる気がする・・・。
「ありがとう・・・」
その言葉は冷え切ったくらい室内に吸い込まれて消えた。

・・・ありがとうございました。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ