ベイブレード2009外伝@
□仔犬
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「……なんで?」
「何がだ」
「どーしてお前にばっかり懐いてんだよ!?」
タカオは要領よく犬を洗って戻ってきたカイに向かって言った。
「俺が知るか。それから人を指差すな」
納得のいかない表情で、タカオはカイの傍で大人しくミルクを飲むその犬を見た。
「それで、その犬をどうするんですか、お祖父さん?」
キョウジュが言った。
「…そうじゃのぅ…。見た処カイ君にしか懐いて居らんようじゃしのぅ」
割れた壺の事を引きずっているのか、じっちゃんはうなだれた声でそう言った。
「カイが飼うの?」
「……。」
「それなら名前つけなきゃネ」
「馬鹿犬だし、フーリッシュは?」
「Wow.タカオ、Englishネ!」
「先週習ったんだぜ」
「ちょっと、仮にもカイのペットに“愚か者”はないでしょ」
「そうだな、流石にな…」
「待って下さい、カイが飼うならカイが決めるべきですよ」
キョウジュまでもがタカオ達の話の流れに呑まれている。
「……。」
いつの間にか眠ってしまったその犬の名前と処遇については、延々とタカオ達の話題として夕飯の席にまで流れ込んだ。
しかし、翌日。
その犬は何処へともなく木宮家から姿を消してしまったのだ。
元が野良犬だっただけに、タカオ達は特に心配をする事もなく、早々にその話を棚上げにした。
「……。」
「…カイ?」
レイが、縁側で外をぼんやり眺めているカイに声をかけた。
「如何した?あの犬が心配か?」
「…カズだ」
「ん?」
「あの犬の名前」
「カズ?名づけてたのか」
「いや、やつから聞いた」
「……は?」
「何でもない」
「…気づいてたのか」
カイが立ち去った後、レイは誰に言うでもなく、そう呟いた。
カイは、いつものように黙って木宮家を出ると、いつもの散歩コースを逸れて小さな十字路へやってきた。
そして、その電柱の傍らにひっそりと咲くタンポポを見て、その花を、優しく撫でてやった。
……シャワーを浴びせた時に気が付いた事だった。
カズは、雨に濡れて冷たい訳ではなかった。そして、足を洗おうとした時に気づいたのは、それがうっすらと、透けていたという事だけ。
名前は、以前餌をやった時にみた、首輪を覚えていたから知っていた。
その時の首輪は、今、あの十字路のタンポポに引っ掛かっている…
謎。の一言。志幌は何がしたかったんでしょう…?