ベイブレード2009本編
□1-8. 裏切りの理由
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「……と、言う訳で」
「申し訳ない、皆さん」
木宮家の居間に集まったタカオをはじめ、キョウジュ、ヒロミ、レイ、カイ、マックス、じっちゃんの前に深々と頭を下げる征志郎の姿があった。
「エリスの事、教えてくれるんですか」
レイが口火を切った。
「…あの子は妹を…イリアを助けるために皆の聖獣を手に入れようとしたのだ」
「妹…?」
「4年前、第一回世界大会の時だ…あの子の妹、イリアは崖から落ちて頭を打ち、意識不明の重体になった。そしてその治療をボーグに頼まざるを得なかった…。そのままイリアはその聖獣、フィオナともどもボーグに連れ去られたと…」
「連れ去られた?」
「黒フィオナ…」
ぴくりとカイが反応した。
「詳しい事は分からないが、その特殊な聖獣とそれを扱えるブレイダーの研究材料として扱われているようなのだ」
「……私より、可哀想な子がいる」
ヒロミの声が静寂を破った。
「あれは、その、イリアちゃんの事?」
「あの子が、そんな事を…」
征志郎は震える声で言った。
「エリスちゃん…きっと一人で辛かった筈ネ」
マックスの目もうるうるし始めた。
「エリス…」
「リンさんと、ヴェルさんはそれをご存知で…」
「………」
「どうかお願いします」
征志郎は再び頭を下げた。
「あの子は、大事なものを奪われることを恐れるあまり、大事なものを増やさなくなった…。昔は誰とでも仲良くなりたがる明るい子だったのに…。今では壁を作り、機械的な付き合いしか持たなくなった」
「そんな…でもエリス、あんなに楽しそうに笑ってたのに…」
「おいしい料理も作ってくれたしよ」
「気立ても良い、あんないい子がなぁ…」
「…あの子は、皆さんに惹かれていたようだった」
征志郎は目を細めていった。
「惹かれて…?」
「あの子はどんな時でも笑顔で、ただにこにこ笑って素顔を隠していた。見えない壁を作り他人と必要以上に関わろうとしなくなったあの子が、あのパーティーで実に楽しそうに笑っていた…。久しぶりに見た…あんな笑顔は。君たちのおかげだと思っている…。それなのにあの子は自分でそれを断ち切ろうと…いや、断ち切ったんだな、既に」
カイの手にあるベイを見て、そう言った。
「どうか、あの子を赦してやってほしい…あの子を、助けてやってくれ」
そう言って、雨脚が激しくなってくる中、征志郎は帰っていった。その夜、激しい雨音の中、タカオ達は道場に布団を敷き、やるせない思いを抱えていた。
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