ベイブレード2009本編

□1-5. 招待状
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パーティーの日の昼間、早めにトレーニングを切り上げたタカオ達がペンションに戻ると、迎えの車が既に来ていた。そして…

「だからこんなの厭だってば!」

「しかし、お嬢様…!!」

中からいつになく声をあげるエリスが飛び出してきた。

「あ。お帰りなさい」

「どうしたんです、エリスさん?」

「それが…」

「エリスお嬢様!!」

エリスの後を追って、男が出てきた。エリスは咄嗟にカイを盾にして身を隠した。

「おい…!」

「あれ?いつも肉や魚や手紙を持ってくるお兄さんネ」

「どうしたんだ?何かいつもと様子が…」

ツナギに帽子をかぶって、束ねられた後ろ髪がちょんとはねている姿は何度か見かけた事がある。しかし、今日のその人は漆黒の髪をいつものように束ねてはいるものの、普段の帽子はかぶっておらず、よってその髪を自然に逆らうことなくすとんと肩に落としている。更に恰好は黒い燕尾服だ。

「…その人は私のお目付け役なの」

エリスはしぶしぶとそう言った。

「これはBBAの皆さん。私、榊那家に代々仕えます、戸張家のヴェルダンと申します。いつも早朝からのトレーニングでお忙しい皆様へのご挨拶が遅れまして申し訳ございません」

深々と頭を下げるヴェルに、タカオ達は恐縮気味だ。

「本日のパーティーへご出席と伺い、お迎えにあがりました」

「だが、確か6時からだろう?少しばかり早すぎないか?」

レイの言葉にヴェルはため息交じりにエリスを見やると笑顔で言った。

「お嬢様確保の時間を計算に入れましたので」

「…は?」

「エリスお嬢様、大旦那様もいらっしゃるパーティーへの出席に、まさかそのような危険な服装で行かれるおつもりではないでしょう?」

「…危険?」

「だからってあんなドレスは絶対に厭だ」

「ドレス?」

「皆様にもそれ相応の正装をご用意いたしました」

サラリとヴェルが言ってのけた。

「皆のはいいわ、生地も素敵だし。…私のみたいにひらひらしてないもの。丈だって」

「え。待てよ。そんなに大げさなパーティーなのか?」

「ご心配には及びません。立食パーティー式で入場も退場もお好きな時に出来ます。裏庭にはベイスタジアムもありますから、ユーリ様たちとバトルして楽しんで頂くことも可能です」

エリスを追い詰めながらヴェルがタカオ達の心配を取り除いた。

「お嬢様?」

必死に抵抗するエリスに、ヴェルが途端に跪き、悲しそうな声で言った。

「そんなに、お厭ですか…?」

「え…」

「私が、そんなにお嫌いですか…?」

泣き出しそうなヴェルを見て、エリスはグッと息をのむとヴェルに駆け寄って慌てて言った。

「そんな、ヴェルが厭だなんて…私はただ、あのドレスの丈が短すぎるし、そもそもあのドレスがちょっとひらひらしてて私には可愛すぎるから…もう少し大人しいのがいい、って…それだけよ?」

その様子を見て、ひそひそとタカオ達が言った。

「エリスの優しさに付け込んでるよな、あいつ」

「お目付け役、って言うのは主人うまく転がす必要があるからな」

「でもエリスちゃんは一人でそんな無茶もわがままも言わないと思うネ」

「やはり榊那のお嬢様なんですよ」

「……ふん」

ヴェルはエリスの焦った表情を見上げながら首をかしげて言った。

「……ヒロミ様は大喜びでいらっしゃいましたが?」

「そう言う事じゃなくって!!」

全く通じていないヴェルに、流石のエリスも立て板に水だ。ようやく観念して、ヴェルは「わかりました」と言ったのは更に5分ほど押し問答が続いた後だった。

「リン様がお選びになったドレスにしましょう。全く、私がお選びした服は昔から一着も着ては下さらないのですから…」

不服そうなヴェルとともに一行はペンションに入ると、既に運び込まれていた正装に着替えた。エリスのドレスは、上品なひざ下の淡い青のしっかりした生地のワンピースだった。
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