ベイブレード2009外伝@
□報告
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「そうそう、そう言えばな」
最も親しい戦友ともいえるその男は、相変わらずの大食漢振りで俺が注文しておいた量の多いフルコースを次々にその腹に収めていく。向かい合って座る俺はそれと対照的にワイングラスを傾けながら大きな皿にちまっと乗せられた小さなオードブルを小さく切って口に運ぶ。
「来月、マオと祝言を挙げる」
「…もの食いながら言う事か」
「………」
ごくん、と口の中のものをのみ込むと、水を一気に流し込んだ。
「いや、タイミングがつかめなくてな」
「せめて最悪のタイミングは避けろ」
俺がそう言うと、レイはふやけた顔で笑った。らしくない表情だと思った。その気の抜けた顔はレイのものと言うよりは木宮のもののように思われた。
「白虎族の祝言の儀は身内しか呼べないんだ。けど、俺はお前たちにも祝ってほしいと思ってる」
「……欲張りは幸せに嫌われるんだぞ」
「どんな童話の受け売りだ?」
「………。」
エリスに無理やり読まされた童話の一節を咄嗟に引用してしまった自分のうかつさにため息を吐きそうになったが吐いたら吐いたで笑われる気がしたので止めた。
「てか、それって幸せ絶頂の友人に吐く言葉じゃないだろ」
「すでに絶頂ならいいだろう。後は下るだけだ」
「カーイー?」
本当に、今日のレイは気に食わない。
「幸せは不安と相性がよくないんだぞ」
「……」
レイは急に表情を固めて、俺を見た。
何と言うのだったか、こういうの…。何か的確な単語があった筈だ…。つまり、幸せを目の前に足がすくんで不安になる…。
「…マリッジブルーか?」
ようやく探り当てた言葉をつぶやくと、レイは盛大にむせた。
「はっ!お前、それって「火渡カイに似合わない言葉トップテン」の一つだな」
「その真っただ中の貴様に言われたくない」
「……まーなぁ」
それきり、黙ったレイは黙々と皿を空けていった。落ち込んでいても食欲は健在らしい。
「…エリスと一緒になる時どうだった?」
「は?」
咄嗟に、間抜けな声が口からこぼれた。
「だから、エリスと…」
「――あいつと俺はそんな関係じゃない」
俺がそう言った後、レイは盛大なため息をついた。
「真顔でそれ言うんだもんなー。…んー、何か俺、何とかやれそうな気になってきた」
何を納得したのか、レイは猫のように伸びをして、頬杖をついた。
「そうそう、BBAの仲間とか俺たちの知り合い集めて、そういう身内だけのパーティーしたいんだけど、会場とか何とかならないかな」
「……それを先に言え」
エリスの料理と俺の家でと期待しているなら尚更だ、暇人め。
俺は、すっかりいつも通りのレイを見ながら、向こう3か月のスケジュールを頭の中で整理し始めていた。
結局は都合つけてエリスの負担も最小限になるように取り計らう火渡氏。公式カップルは公式に従うのが志幌的2次元ポリシー。