ベイブレード2009外伝@
□初夏
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「…暑い…」
日本の夏はエリスにとって初めて経験するものだった。生まれこそフランスとはいえ、極寒のロシアで育ったエリスはこれにかなり参っていた。…同じくロシア育ちの青い幼馴染は「慣れた」の一言で涼しい顔を崩す気配もない。
「大丈夫か?」
レイに気遣われて、ぼんやりと曖昧に笑う。
「買い出しリストを作ってくれ。俺が代わりに行ってくる」
嬉しい申し出に、エリスは感謝しつつリストを書いた。レイが買い物に行ってくれる間に道場の掃除と洗濯が終われそうだ。
「何だ、レイ?買い出しか」
タカオがひょこっと顔を出した。隣にはマックスもいる。
「ああ。この暑さの中、エリスを放り出すわけにはいかないからな」
他にも家事があるみたいだし、とレイは続けながらリストを財布にしまい込んだ。
「じゃあ俺も付き合うよ。商店街なら俺の方が詳しいし」
地元なのだから、当然だ。タカオが名乗りを上げた。
「じゃあ僕は家でエリスちゃんのお手伝いネ♪洗濯もの取り込んだり、掃除したり…何でも言って欲しいネ」
「ありがとう、皆。代わりにお夕飯はとびきり美味しいハンバーグを作るからね」
三人の共通する好物を挙げると、俄然やる気を出して二人は買い出しへ、一人は道場へ走って行った。
「…と言う訳なんだけど、貴方も手伝ってくれたらハンバーグに特製デミグラスソースつけるけど?」
「……俺を食い物で釣るな」
風通しの良い縁側で長い足を持て余し、横になっていた幼馴染が不機嫌そうに言った。
「釣られておいたらいいじゃない。…子供らしく」
「誰が子供だ」
そう、目の前にいる、図体ばかりいつの間にか大きくなっていたこの幼馴染だって、まだ15歳だ。
「カイがデミグラスソース好きだなんて知らなかったわー」
「……何故今日はそんなに不機嫌なんだ?」
皆と一緒にいて、助けてもらうのが当然で、いつのまにか馴染んでいる自分への罪悪感。そんなこと、言えるわけがない。
「だって、暑いんだもの」
そう言っていつものように笑顔で誤魔化した。
強化合宿前に木宮家に揃って居候していた頃。俗に言う黒エリス、でもこの話で黒○○って言うと聖獣の事みたいに聞こえる。