ベイブレード2009本編
□1-9. 旺愛鈴
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「このっこのっ!!」
ピシャンッと、鋭い鞭うつ音が地下牢に響く。
「黄麟どころか、朱雀まで逃すとは…!!貴様のせいで!!」
服が裂け、血が滲み、反吐さえ出なくなっても、ヴェルは意識を手放すことなくその痛みに耐えていた。
「この…裏切り者が!!」
頭に包帯を巻いたヴォルコフに何度ののしられようと、彼の誇りは揺らがない。ヴェルはその信頼する可憐な主を裏切ったことなど、一度もないのだから。彼女に仕える者としての誇りだけが、彼を支えていた。
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「……ふむ」
3日後、往診に来ていた町医者が検診を終えるとにっこりと笑って「もう良いでしょう」と言った。長引いていたエリスの熱も完全に下がったのだ。
「お世話になりました」
じっちゃんが、医者を見送る声が聞こえた。
「良かったな、エリス 」
「もう、心配したんだからね」
二人の親友に労われ、エリスは小さく笑って頷いた。
「おじい様にも心配かけちゃったわね」
昨日、木宮家へとやってきた征志郎は一頻り頭を下げるばかりだった。エリスの体調を考えて早々にお引き取り頂いたのだが、孫娘を案じる気持ちがいたいほど伝わってきた。
「さて。んじゃ聞かせてもらおうかな」
タカオがそういいながら部屋に入ってきた。マックス、レイ、カイ、キョウジュもそれに続いた。
「情報は多いに越したことはありません。確実な方法でヴェルさんとイリアさんの救出に向かいましょう」
「そう、ね…」
大勢の仲間に頼るという状況に、エリスはまだ慣れないようだった。
「大丈夫よ、絶対」
ヒロミの言葉に頷いて、二人は話し始めた。
「ヴェルがいるのは此処から東に行ったところにある、小さな港町。過疎化が進んだ町を一つ丸々買い取ったらしい処で、殆ど外界からは断絶されてるわ」
「そこの管理人が、私らにはよく見知ったやつでね。…ヴォルコフ、ってんだ」
リンの言葉に、一同が騒然となった。
「あいつ、まだそんな事を…」
「それ、ユーリ達は?」
「トップがヴォルコフだとは知らないわ。いざとなったら助けてくれる事になっているけれど…ユーリ達は彼の話になればきっと進んで何でもしてくれてしまうから」
いつもは冷静なユーリ達が自我を保つ事が難しいほどにボーグでの経験は歪んだものだった。特に、彼を盲目的に信仰してきて裏切られたユーリ達には冷静でいる方が難しいだろう。普段冷静な分、余計に熱くなってしまうかも知れない。