ベイブレード2009本編
□1-8. 裏切りの理由
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「これは…」
エリスの目の前に信じがたい光景が広がっていた。親友が酸素マスクをつけて培養液に漬けられているのだ。
「どういう、事…?」
「簡単なことだよ」
「――!」
エリスが振り向くと、そこには見知った顔があった。
「ヴォル、コフ…」
「久しぶりだね、エリス・シュターレス。おや、今は榊那エリスだったかな?」
エリスはその男を鋭く睨みつけた。コツコツと音をたててヴォルコフが近づいてくる。
「リンの“中”に宿る聖獣を取り出しているんだ」
「な!?」
エリスの反応を、ヴォルコフは楽しげに見つめていった。
「キミも知っての通り、彼女の命をつないでいるのは彼女の聖獣…黄麟だ。聖獣は召喚されなければ意味がない」
「でもまだ、私は朱雀しか…!!」
「ああ。あれねぇ…」
ヴォルコフはどうでもよい事を思い出したように言った。
「キミは強いけれど、やっぱり黄麟が、ね?いたら簡単に四聖獣も捕まると思うんだよ」
エリスは戦慄、と言うものを初めて覚えた。そして同時に憎悪が巻き起こった。
「あなたは!!」
ヴォルコフの胸倉に掴みかかった。ドアの外に待機していたヴェルにも聞こえるような声だった。
「私からどれだけ奪えば気が済むの!?イリアを何処へやった!!次はリンなの!?あなたに…あなたにあげるものなんて何もないわ!!二度と…奪わせない!!」
「やめないか、エリス…。妹さんの事は気の毒だが、私は本当に知らないんだよ。あの大会の後は色々とごたついていたからね…」
駆け込んできたヴェルに抑えられて、息を荒げるエリスを見てヴォルコフは鼻で笑った。
「全く、榊那家のご令嬢が随分と口汚い物言いだな。そこの召使、主の躾はちゃんとしておけ」
「ふざけないで!私は…」
「――エリスお嬢様」
ヴェルの冷たいほどに落ち着いた声がエリスに届いた。
「そろそろお夕食の時間です。お部屋にお持ちしますのでお待ちください」
それは、エリスの知っているヴェルのそれではなかった。
「なに、を…言って…?だって、リンが…」
「お嬢様。彼女でなくても、良いでしょう?」
「……え?」
「私がすぐに、次のお友達を探してきて差し上げますから、ね」
その時のヴェルは、いつもと同じ笑顔で、まったく違う事を言った。
「あ、あぁ…あ…」
エリスは、その場から逃げだした。
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