キリリク
□秋の喧騒
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「今日こそ渡す…!!」
「今日は逃げない!!」
そんな決意を胸に、二人は家を出た。
それはある秋の日の出来事。
「…何してるんですか?」
「別に」
「別にって顔じゃないでしょう」
うるせぇ。キョウジュめ。人の気も知らねぇで。というか何よりてめぇだ、ヒロミ!!何だってカイの講義終わるのなんざ待ってやがるんだ!!今日こそ、って意気込んできた俺の覚悟は何だってんだ!!
「タカオー?何でもないんでしたら、出て行ってくれませんか。此処、一応はウチの研究室なんですから」
「今はキョウジュしかいないんだから良いだろ」
「ああ。もう。そう言う処は子供の頃から変わらないんですから」
子供の頃から…
「はっ!まさかヒロミもか!?」
窓に張り付いて外を見ていたタカオが突然振り返って大声を出したから、キョウジュは驚いた。
「何の話ですか、一体!?」
「ヒロミもガキの頃から変わってないのか!?」
「…ヒロミさんの事なら、私よりタカオの方が専門じゃないんですか?」
呆れ口調でそう言ったキョウジュは、既にタカオを研究室から追い出す事を諦めて、そのまま研究へと戻って机に向かった。
「……あいつ、まだ…」
まだ、カイの事…?俺は、カイの代わり…?
彼女のその初恋相手への思いを図りかね、悶々としたまま、タカオは窓際に立ち続けた。