ゆめ置き場

□さりげなく愛されてる
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とうとうやってきてしまった。一週間前のあの日、俺はお前がいればいい、だから何もいらない。って言われたけど、そんなこと出来るわけない。だって、大好きな阿部の誕生日だもん!少しでも喜ばせたいし…だから、私は考えるだけ考えて、お弁当を作ることに決めた。特別なものじゃないけど、育ち盛りの男の子にはやっぱりひとつのお弁当だけじゃ足りないみたいだし。でも好きな食べ物とかわかんないんだよなあ…喜んでくれるといいんだけど。

登校して、さっそく阿部を探す。探すって言ってもグラウンドにいるのはわかってるからグラウンドまで足を運ぶ。こんな寒いのに毎日よく頑張ってるよなあ。あ、いたいた、走ってる。…そういえば久し振りに練習見に来たかも。私も朝練続いてたし。こういう風にフェンスから覗いていると、なんだか片想いみたい。私の場合その時は勇気なくて、やったことなかったけど。でも、みんなかっこいい。こんなかっこよかったら見たくもなるよねぇ…


「来てたのか。」

「お疲れ様。えへ、見に来ちゃった。かっこよかったよ?」

「…そーかよ。」


あはは、照れてる照れてる。阿部にこういう顔させられるのは私だけって思うと、嬉しくなる。阿部の彼女になれて良かったなあ…


「今着替えてくっから、待ってろ。」


そんなこと思いながらぼーっと阿部を見てたらそう言われて頭コツンってされた。えへ、阿部のこれ好き。うんわかった、と返事をして部室に戻っていく阿部の後ろ姿を見送った。

クラスに入ると暖かさが身に染みる。やっぱり外にあれだけいれば寒いの当然だよなあ、そのつもりだったんだから、もうちょっと着込んでこれば良かったな、……あ!そうだ、お弁当!せっかく作ってきたんだから渡さなきゃ意味がない。忘れてる場合じゃないよ…!まだホームルームまで時間もあるし。…お腹減ってるかな?


「ね、あべ、」


そう言うと同時にバサッと、投げつけられた、ってか、掛けられた?


「ふぁ、…カーディガン?」

「着てろ。」

「なん、」

「腕。さっきからさすってるだろーが、それに、寒い寒い言ってっから…それくらいわかるっての。」


…ちょっと面食らった。確かに寒かった。今日は薄着だったなあって反省もしてた。けど、そんな素振り見せてるつもりなかったのに。だから、まさか阿部が気付くなんて思わなかった。…ていうかこのカーディガン、さっきまで着てたよね。わざわざ脱いでくれたのかな、…まだ暖かいし。なんだか、うん。私、







さりげなく
愛されてる









んだなあって思ったら、嬉しくなった。

私は好き好き、って簡単に言うけど、阿部はそう簡単には言ってくれなくて。そういうのに不安を覚えないわけじゃないけど、でも今みたいな、こういう瞬間がたまにある。それだけで幸せになれる私はもう相当彼にぞっこんだと思う。ああ、もう──


「んーっ!大好きっ!!」


1人で悶々としてるうちに、いつの間にか阿部は私の手の内にあったお弁当を広げて食べようとしていた。けれどその後ろから突っ込んでやった。ぐぇっとか言いながら振り向く阿部に、この言葉を。



「誕生日おめでとう、阿部!」







あまい、より(091211)

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