VitaminX

□幸せの白いしっぽ
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世界で一番、愛してる。


その言葉は、いつもボクに向けられていた。
彼にはボクだけで、いつも彼を独り占めだった。

けれど彼は、大切な人と出会って、彼女を愛した。

ボクははじめて、瑞希くんがその言葉を、ボク以外の人に言うのを聞いたんだ。

ボクは大丈夫。寂しくないよ。
彼女を愛した瑞希くんは、彼女だけじゃなくて、2人を包む世界の全てを愛していて、今まで目をそらしてきたいろんな物に興味を持って、自分という存在を愛していて、彼女とのこれからの未来を想って、生きる事を心から楽しんでいる。

恋を知った瑞希くんはとてもキラキラしていて、眩しくて…。
ボクはそんな瑞希くんを、もっともっと大好きになったんだ。




瑞希くんは彼女の膝枕で、今は穏やかな夢の中にいる。
彼女は優しく瑞希くんの髪を撫でて、彼の寝顔を見つめていた。

「悠里…」

瑞希くんが小さく寝言を呟く。
きっと、夢の中でも瑞希くんは彼女と一緒にいるんだ。

今まで瑞希くんは、現実から少しでも離れるため、夢の中を逃げ場にしていた。

だけど今は違う。
夢の中でも彼は幸せに包まれていて、そこはもう、逃げ場所なんかじゃない。
彼女の膝枕で幸福な夢を見る彼の寝顔は、とても穏やかだ。

「私の夢を見てるの?」

くすくすと笑って、彼女は瑞希くんの髪を撫でる手を休めた。

そこへ、家の電話が鳴る。

「あら…」

彼女は手を伸ばして、側にあったクッションを引き寄せた。

瑞希くんを起こさないように、ゆっくり立ち上がって、今まで膝があったそこに、代わりにクッションを置く。

「トゲーは瑞希といてね?」

彼女はそう言って、電話に出るべく隣の部屋へ行く。

「ん…悠里…」

クッションは柔らかいけれど、そこに、人間の膝枕みたいなぬくもりはない。

ボクは瑞希くんの肩に乗って、大丈夫だよ、と言った。

彼女はあなたを1人にしたりしない。
彼女はずっと、側にいるよ。すぐに戻ってくるよ。

ボクは人間じゃないから、大好きな瑞希くんに、ぬくもりを与えてあげる事はできないけど。

大切なご主人様で、親友で、大好きな瑞希くんが、安心できるように。
ボクは彼の肩の上で、小さく跳ねた。

「トゲー…?」

夢の中にいる彼が、ふ…と笑った。
だからボクも安心する。
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