VitaminX
□永遠のLoveTime
1ページ/3ページ
彼の事だから、新婚旅行は世界一周とか…いや、普通では考えつかないような、もっと途方もない計画を立てていると思っていました。
「やっぱり熱海はいいわね」
ししおどしの音に耳を傾けながら、悠里は旅館の部屋でのんびりしていた。
引っ越しや、式の準備、親戚への挨拶まわり。
ここしばらくバタバタと慌ただしかったので、温泉でのんびり、というのは非常に嬉しい。
熱海のこの旅館に来るのは2度目だ。
「何年前になるのかな…」
この数年間を思い返してみて、懐かしくなる。
「……何を考えている? 悠里」
内風呂にいる翼が悠里を呼んだ。
「ここに来るのは久しぶりって思って…。あの時と変わらないわね」
あれは数年前、翼が大学生になってすぐ。
平日だというのに海外旅行に行くと言って、自家用ジェット機で連れ出されて。
悠里は仕方なく、国内限定で、のんびりできる温泉ならOKと了承したのだ。
結果、モナコ行きが熱海になって、彼は不満そうにしていたが。
「…ねぇ、どうして新婚旅行に熱海がいいと思ったの?」
新婚旅行こそ、豪華な海外旅行を計画しそうなものなのに…。
「不満か?」
「いいえ。この旅館、とっても好きだもの。ただ、ちょっと意外だっただけ」
翼は、そんなのは決まっていると自信満々に言う。
「前に来た時、俺たちは新婚に間違われただろう」
「…? そうだったわね。覚えてるわ」
実際は、付き合い始めて間もない恋人だったのだが。
「ようやく本当の新婚になれなのだからな。あの時の女将に報告をするためだ」
だから、悠里と結婚したら、新婚旅行はこの旅館に来るのだと決めていたらしい。
「…翼くんたら」
恥ずかしいやら何やら。
悠里は反応に困ってしまう。
「それじゃ、貸し切りじゃないのは?」
彼は、やたらと何でも“2人きり”にこだわるから。
食事をするレストランからホテル、買い物をする店まで、いつも貸し切りにするのに。
この新婚旅行は、交通手段もごく普通の新幹線で、旅館も他の客で賑わっている様子。
「それは…」
「……?」
「専用機で来て、貸し切りの旅館に泊まったのでは、この幸せを見せつける相手がいなくなるからな」
「……」
全く、この人は。
悠里は少し呆れながらも、そんな彼を愛しいと思った。