VitaminX
□だから君を憎たらしいと思う。
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まさか、ドライヤーにムカつく日が来ようとは…。
清春は、だらしなく手足を伸ばしてベッドに転がっていた。
まるで自分の部屋の自分のベッドのようだが、実際ここは瞬の家で、ベッドも彼のものだ。
あいつの物はオレ様の物、つまり、結局は自分のものだと、清春はまるでジャ○アンのような事を真剣に思っているのだが、それはともかく。
「なー。まだなのかよ」
同じ空間の、少し離れた鏡の前にいる瞬は、先ほど風呂から上がって、それからずっとドライヤーを使用中だ。
彼は髪が長いので、乾かすのに非常に時間がかかる。
待たされる清春は、いつも不機嫌になるのだ。
妥協を許さない彼は、ちまちまと時間をかけて、少しずつ髪にドライヤーを当ててゆくので、見ている清春は更にイライラ。
日頃、電気代がどうだとか、時間の無駄がどうだとか、口うるさいくせに。
これは明らかに無駄なんじゃないんですかと、先ほどから大活躍中のドライヤーに対して思う。
「いつまでガーガーやってやがんだ」
毎度の事なのだが、清春は呆れを込めて言う。
無駄とわかっても、言ってみる。
瞬は一度、チラリとベッドの方に目をやった。
「……」
けれど、清春の視線は無視してすぐに鏡に向かう。
「……このまま寝ちまうぞ」
…やっぱり、無視。
これは新手の放置プレイというやつですか、と問いたい。
「…蹴って起こしてやる」
瞬は手は休めないまま、少し間をあけて返した。
「……」
どうやら、相手をする気はあるらしい。
瞬は現在、サイドのくるっと巻いた髪を調整中で。
この巻きには、彼なりに妥協できない拘りがあるらしい。
清春には知った事ではないが。
そんなの朝にやればいいと思うが、夜、きっちりしておかないと、朝からでは思うように決まらないのだと言う。
全く面倒くさい。
枕を抱いて、ベッドに転がる清春は、ただ待っているのもつまらなくて、何か悪戯をしかけてやろうと思うのだが。
「……」
本当に放置プレイされているようで、虚しくなる。
まさか、ドライヤーを憎らしいと思う日が来るなんて。
例えば瞬が、自分にはわからない音楽の話をバンドのメンバーとしていても、ベースに熱中していても、別に気にならないのに。
夜の時間を奪うドライヤーに、瞬を独占されているようで。
ドライヤーに嫉妬してどうする。
そんな自分をバカみたいだと思う。