VitaminX

□香酔
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部屋に着いてすぐ、翼様をソファーへとお連れした。

大きなソファーにぐったりと横になられた翼様の上着を奪う。



つい先ほどまで、普段と変わらないご様子で、受け答えも足取りもしっかりとなさっていたのに…。

車に乗られた途端、翼様は急に糸がぷつりと切れたようになられて、車からマンションの部屋までご自分で歩けないほどの状態だった。



今夜は、財界人が集うパーティーが催され、翼様は真壁財閥のトップである吉仲様の代理として出席された。

集まった財界人たちは、まだ若い真壁財閥の次期代表に、あからさまにすり寄ってきて、見え見えのお世辞やら何やらでご機嫌伺いをしてきた。

翼様は今夜は真壁財閥の代表として、最後までご立派に対応され、きちんと吉仲様の代理をこなされたのだが。

やはり、自分をまだ子供だと内心でバカにしながら、あからさまにすり寄って来るタヌキどもには、うんざりされたのだろう。

誰にでもきちんと挨拶を返しながらも、翼様は途中から、これでもかというほどお酒をお召しになられた。

いわゆる、やけ酒。

苛立つ感情を抑えるため、それはもう、すごい勢いで。

傍で見ていた永田は、何度か止めてみたのだが、当然、聞き入れられるはずもない。

心配していたが、彼は最後まで、至って普通にタヌキどもの対応をなさっていて、酔われている様子など、会場のホテルを出るまで、全く見せなかったのに。

「やはり、ご無理をなさっておいででしたか」

高校を無事に卒業され、大学に入られて、吉仲様の後継者としてお仕事を始められて…まだ1年。

成人されたばかりで、まだまだお酒には不慣れな方が、急にあんなムチャな飲み方をされて、平気なはずもないが。

「翼様、今夜はもう、このままでよろしいですから。ベッドでお休み下さい」

永田はそう言って、翼のネクタイを緩めた。
結び目をほどいて、するりと引く。

今日もネクタイは行きがけに、結んで差し上げた。
ご自分でも結べるのに、いつも任されるのは、喜ぶべき事だろう。

続けてシャツのボタンを3つほど外して、永田は、翼様の眼鏡を側にあるテーブルにそっと置いた。
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