VitaminX
□キミとLove Battle
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トゲーは、ずるい…。
たぶん、他の誰かにはわからないだろうが、いつもと変わらない無表情な瑞希は、実は今、まさに今、とても不機嫌だった。
放課後の教室に先生と2人きり。
少し前までは、補習の時間がこんなに待ち遠しく楽しみなものになるなんて、思いもしなかった。
けれど、現在、瑞希は不機嫌。
表情には出さないけれど、とっても不機嫌。
放課後の教室で、大好きな悠里と2人きりなのは、喜ぶべき事なのだが。
「それでね、この図形の面積と…」
悠里は英語の先生だが、今は数学を教えてくれている。
この補習が本当は必要ないものだと知ったら、一生懸命に担当外の教科を教えてくれている彼女は怒るだろうか。
どう説明すれば理解してくれるか、どうすれば勉強を好きになってくれるか、必死で考えて補習に取り組んでくれている彼女の努力を思うと、少し胸が痛むのだが。
瑞希にとっては、この補習の時間そのものが必要な、何より大切な事だから。
「……今の所、わかった?」
問いかけてくる悠里に、瑞希は無言で首を縦に振った。
よかった、と嬉しそうに微笑む彼女を、いつの間にやら好きでたまらなくなった。
悠里と2人きりの、大切な時間。
この教室にいる人間は、今、瑞希と悠里だけ。
……人間は。
「………」
いつからだろう。
自分が悠里の事を好きだと自覚しはじめた頃から、まるで気持ちがシンクロしているかのように、親友のトゲーも彼女を好きになっていた。
トゲーの事なら、確認なんてしなくてもわかる。
間違いなく彼も悠里を好きで、そして彼は自らの“トカゲである”という特権を最大限に活用しまくっていた。
…いつからだろう。
トゲーの定位置が、悠里の胸元になったのは。
今日もトゲーは、悠里のスーツの中に入り込んで、胸元から顔を覗かせていた。
胸ポケットに入ったり、図々しいったらない。
肩に乗るのでさえ、ちょっとジェラってしまうというのに…。
トゲーの見せつけているとしか思えない定位置が、憎たらしいやら腹立たしいやら。
トゲーは親友で、愛しているけれど。
それとこれとは、別。
「……瑞希くん? ごめんなさい、ちょっと難しかったかな?」
じっとトゲーを睨んでいたからだろう。
悠里は勘違いして、参考書のページを捲る。
「…大丈夫だよ、先生。先生の説明は、とても…わかりやすい……」
これは本当。
これなら他のB6のメンバーも理解できると思う。
口には出さないけれど。
「そう? よかった」
悠里は嬉しそうに笑った。
スーツの胸元からは、相変わらずトゲーが顔を覗かせている。