VitaminX

□永遠のLoveTime
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彼の事だから、新婚旅行は世界一周とか…いや、普通では考えつかないような、もっと途方もない計画を立てていると思っていました。






「やっぱり熱海はいいわね」

ししおどしの音に耳を傾けながら、悠里は旅館の部屋でのんびりしていた。

引っ越しや、式の準備、親戚への挨拶まわり。
ここしばらくバタバタと慌ただしかったので、温泉でのんびり、というのは非常に嬉しい。

熱海のこの旅館に来るのは2度目だ。

「何年前になるのかな…」

この数年間を思い返してみて、懐かしくなる。

「……何を考えている? 悠里」

内風呂にいる翼が悠里を呼んだ。

「ここに来るのは久しぶりって思って…。あの時と変わらないわね」

あれは数年前、翼が大学生になってすぐ。

平日だというのに海外旅行に行くと言って、自家用ジェット機で連れ出されて。
悠里は仕方なく、国内限定で、のんびりできる温泉ならOKと了承したのだ。

結果、モナコ行きが熱海になって、彼は不満そうにしていたが。

「…ねぇ、どうして新婚旅行に熱海がいいと思ったの?」

新婚旅行こそ、豪華な海外旅行を計画しそうなものなのに…。

「不満か?」
「いいえ。この旅館、とっても好きだもの。ただ、ちょっと意外だっただけ」

翼は、そんなのは決まっていると自信満々に言う。

「前に来た時、俺たちは新婚に間違われただろう」
「…? そうだったわね。覚えてるわ」

実際は、付き合い始めて間もない恋人だったのだが。

「ようやく本当の新婚になれなのだからな。あの時の女将に報告をするためだ」

だから、悠里と結婚したら、新婚旅行はこの旅館に来るのだと決めていたらしい。

「…翼くんたら」

恥ずかしいやら何やら。
悠里は反応に困ってしまう。

「それじゃ、貸し切りじゃないのは?」

彼は、やたらと何でも“2人きり”にこだわるから。

食事をするレストランからホテル、買い物をする店まで、いつも貸し切りにするのに。

この新婚旅行は、交通手段もごく普通の新幹線で、旅館も他の客で賑わっている様子。

「それは…」
「……?」
「専用機で来て、貸し切りの旅館に泊まったのでは、この幸せを見せつける相手がいなくなるからな」
「……」

全く、この人は。

悠里は少し呆れながらも、そんな彼を愛しいと思った。
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