VitaminX
□あなたは迷子の子猫のようで…
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自分の方向オンチは、少しは自覚しているつもりです。
5月も終わろうというこの時期になって、悠里は学園内で迷子になっていた。
「えっと…あっちが多目的ホールで、音楽室が向こうで…? あれ?」
放課後、補習をサボって、ちゃっかりしっかりと行方をくらました翼を探して歩いて、途中で清春の罠にかかってダメージをくらって。
ふと気がついたら、ここは誰、私は何処、という状態。
5月にもなって、非常に恥ずかしいと思う。
この学園が無駄に広すぎるのが悪いと、悠里はとりあえず、自分の方向オンチをこのセレブ学園のせいにしてみる。
「…わかってるわよ。あ〜、早く教室に戻らなくちゃ補習の時間がっ」
教室に戻った所で、翼がちゃんと待っているという期待はかなり薄いが。
信じる者は救われる。
とにかく希望は捨てずに、悠里は教室を目指していた。
いっそ職員室でもどこでも、わかる所にさえ出られればいい。
「えっと…こっちに行けば……?」
とりあえず、放課後の誰もいない廊下を進んでゆく。
「南先生?」
「は、はいっ?」
…確かに誰もいなかったはずの廊下の向こうから、急に名前を呼ばれて、悠里は驚いてふり返った。
「永田さん…」
「おや、驚かせてしまいましたか」
確かに通り過ぎた時は誰もいなかったのにと、悠里は心の中で思う。
急に現れた彼は、先ほどまで悠里が探していた人物の秘書。
「南先生はどうしてこのような所に?」
それを聞きたいのは悠里の方なのだが。
先に聞かれてしまって、答えに困る。
何より、まだ心臓がばくばく悲鳴をあげていた。
「私は…ちょっと…」
いっそ、迷子になっちゃいましたと言って、救出してもらえばいいのだが。
どうにも恥ずかしくて、悠里は言葉を濁した。
「そうですか、では」
実は始めから答えを聞く気はなかったのか、永田はあっさりと納得して、背を向ける。
どうにも掴めない人だな、と悠里は思った。
「あ…」
永田が完全に行ってしまう前に、悠里は慌てて後を追った。
本当に忍者みたいに消えてしまったらどうしようと思ったが、廊下を曲がっても、彼の後ろ姿はちゃんとそこにいた。