VitaminX
□君のColor
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そこにいるような気がして、屋上へ通じる階段を昇った。
ドアは開いていて、フェンスに寄りかかって空を見ている彼の背中が見える。
「よっ」
声をかけると、悟郎はゆっくり振り返った。
美少女のような彼が、笑顔を見せる。
「キヨ」
けれど、悟郎の人懐っこい笑顔はいつもと変わらないのに、決定的に違う。
彼はいつものように、嬉しそうに駆け寄って飛びついて来ない。
ただ笑顔を見せるだけ。
だから清春には、悟郎が泣いていたんだとわかった。
こんな時、人があまり来ない場所に向かいたくなる心理も。
だから何となく、悟郎はここにいるような気がしたんだ。
きっかけは、昨日の文化祭のために悟郎が描いたポスター。
文化祭が終わって落ち着くまで、清春を含めたB6のメンバーは、悟郎が描いたポスターが破かれて捨てられていたという事件を知らなかった。
それは破かれた本人が、唯一その事件を知る先生にも口止めして、黙っていたからなのだが。
今日になって、いつもと同じ笑顔の悟郎が、いつもと同じように振る舞っているだけで、何か落ち込んでいる事に気づいた。
それで、ポスター事件を知ったのだ。
「ここ寒くねー? 風が冷たい」
清春は、悟郎が立つフェンスの側まで歩み寄って、隣に並んだ。
見上げれば秋の空。
「んー、ゴロちゃんは寒くないよ」
何気ない会話に答えて、悟郎は清春にしがみつく。
いつもと変わらない、遠慮のないゴロちゃんハグ〜だった。
「こうしてればキヨもゴロちゃんもポペラあったかいでしょ?」
にゃはは、と笑う顔も、いつもと変わらない。
それは、無理につくった笑顔。
「……」
「うっわ」
悟郎は、急に清春から離れて、何か不気味なものを見る目で言う。
「キヨが何も言わないでゴロちゃんにハグされてる…ふぇぇぇ〜キヨが気持ち悪いよ〜」
「ちょ…オマエなぁ…」
せっかく清春様が慰めてやろうと思ったのにと言いかけて、やめた。
そうだ、確かにそんなの清春様らしくなくて気持ち悪い。
慰めるどころか、何でポスターの事を言わなかったんだと、責めに来たんだ。
…言わなかった悟郎の気持ちは、理解しているが。